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                         − とある日 −

「なぁ」
「んー?」
「いつも思うんだけどさ」
「うん」
「俺らって……なんかゲームばっかしてね?」
「あー……そういえばそうかも」
「どっちの家に行ってもそうだよなぁ」
「これしかやることないからねぇ、あたし達……っと、あ、それ卑怯!」
「お前だって、この前ハメただろ」
「……それって、一週間も前の話じゃない。そんなの根に持ってるの?」
「別に根に持ってるわけじゃねーって」
「うあ……負けたし」
「後一つだな。夕飯、何作るか考えといた方がいいんじゃねーか?」
「あのね、あたしだって後二つなんだから。あんまり調子乗るな」
「へいへい、っと」
「でさ。結局、何が言いたかったの?」
「へ?」
「さっきの話」
「ん? ……ああ、いつもゲームばっかってやつ?」
「そ」
「いや、俺ら、付き合ってんだよなぁ〜って今更に思ったから」
「ほんと、今更」
「知ってっか? ほら、3組の井上。あいつ、彼女と一線越えたってよ」
「へー、あのオクテ君がねぇ〜。で?」
「……いや、それだけか?」
「何? ヤりたいの?」
「ま、俺も男だからなぁ……」
「ふーん。じゃ、ムードの一つでも作ってみたら?」
「最初の頃、俺、さんっざん、作ろうとしたんだが……そのすべてを駄目にしてくれたのは、どこのどなただったっけ?」
「作り方が甘いんじゃないの?」
「少しは察しろっつってんだよ! ったく、デートに行ったってゲームかアニメかマンガの話ばっかでよー、こっちがそれっぽい話題振っても全然、反応しねーじゃん」
「そりゃ、オタクだから。ゲームの雰囲気に似せてくれたら気づくかもよ」
「……そういうのがいいなら、お前もそれらしくしろよ」
「これでも、気は使ってるんだけど。お姉ちゃんに服見てもらったり、化粧習ったり」
「まぁ、そりゃ分かってるけど」
「だったら、やっぱりそっちが悪いんじゃない」
「……なんか、丸め込まれてる気がするんだが。実は俺のことあんま好きじゃないとかってオチだったりしないよな?」
「エイプリルフールは昨日。今日だったとしても、そんなタチの悪い冗談、言うわけないでしょ」
「ふーむ……って、うわ、ちょ、ちょっと待て!」
「待った無し、沈め」
「くわーっ! そんな無敵コンボありかぁ!? バグじゃねーだろうな」
「最新の攻略本にしっかり載ってるよ。チェックが甘いね」
「てめ、隠してたな?」
「それでも、チェックが甘いのはそっちでしょ?」
「ぐっ……次が勝負か」
「そだねー」
「……なぁ、どうせだから、もう一つ賭しねー?」
「何企んでんの?」
「なんでんな反応早いんだよ」
「分かりやすいから」
「ああ、そうですかい……。いや、ストレートで勝ったら、なんか一つ言う事聞くってのはどうかな、と」
「あざといねぇ……どうせ、エッチなこと要求するつもりでしょ?」
「そういう可能性もなきにしもあらず、だな。どうする? まぁ、別に逃げてもいいが……」
「やっぱりあざとい。っていうか、工夫なさすぎ」
「でも、効果的だろ?」
「……ま、ようは負けなければいいわけだ」
「そういうことだな」
「とりあえず、覚悟しておきなさいよ」
「そっくり返す」



「ごちそうさまでした」
「……どういたしまして」
「何むくれてんの?」
「悔しいだけだ」
「あ、そ。お皿、綺麗に洗ってね」
「わーってるよ」
「あーお腹いっぱい。料理の上手な彼氏がいて幸せだ」
「そりゃようござんした」
「ん、感謝してるよー。ま、今度は作ってあげるから」
「ああ、期待しないで待ってるよ」
「むー少しは期待して欲しいなぁ」
「そんなこと言って、お前、自主的に作ったことなんてないだろ」
「そだっけ?」
「そうだ」
「じゃ、今度こそ作ろう」
「それ、もう五回目」
「あれ……?」
「ったく、ほんとにてきとーだよな」
「そんなあたしを好きになったんでしょ? 『大らかに笑ってる笑顔を一番近くで見たい、付き合ってくれ』……告白文句としてはどうなの? これ」
「……兄貴に言われたんだよ、一番正直な気持ちを口に出せばいい、って」
「ゲームじゃ、男の子って、もっとロマンティックな告白をしてくれるもんなんだけどねぇ」
「悪かったな、かっこわるくて」
「膨れない膨れない。かっこわるくたっていいよ、別に。肩肘張ってたら疲れるもん」
「そりゃ助かる。なぁ……全然、お湯が出てこないんだが」
「あー今、湯沸かし器の調子悪いから。たぶん、もう少しすれば出てくると思うよ。あ、その間に、お茶くれない?」
「……ちょっと待ってろ」
「はいはーい」



「……ほんと、よく飲むな」
「そ?」
「もう三杯目だろ」
「そだね。好きだから。和菓子があると最高なんだけど……」
「それが『言う事』なら買いに行くが?」
「うーん…………」
「本気で悩むことか?」
「そりゃ、天秤に掛けないとならないから」
「……その程度のことで良かったよ」
「なんでそこでため息をつくかな?」
「いや、なんてーか、つくづく平和だな、と」
「頭の中が?」
「そうそ……いや、待て、冗談だ冗談」
「まったく、それが彼女に言うこと?」
「だから冗談だって言ってるだろ」
「じゃ、お詫びに膝枕して」
「……は?」
「膝枕」
「……なんで?」
「して欲しいから」
「……」
「わーい」
「……普通は、逆だと思うんだがなぁ」
「今は男女同権の時代だよー。男子だけの特権だなんてもったいない」
「何か激しく間違ってる気がするなぁ……」
「細かいことは気にしちゃ駄目だって」
「ところで、さっさと『言う事』を言って欲しいんだがな?」
「ふえ?」
「落ち着かない」
「あー死刑囚の心境」
「ヤな喩え方するな」
「んーそんなに聞きたい?」
「そりゃ、さっさと解放されたい」
「ん、なら心して聞くように」
「なんだそりゃ」
「うん、今日、泊まっていけるよね?」
「ああ。どうせ、夜中までゲーム付き合わせるんだろ?」
「んー……今日は、たぶんそうならないんじゃないかなぁ」
「……明日、なんかイベントなんかあったっけ……?」
「もーなんでそういう方向ばっかなのかなぁ」
「オタクだからだろ」
「……そう言われちゃうと、反論できない」
「だろ?」
「でも、そういうんじゃないよ」
「ふーん?」
「今日、一緒に寝よう」
「何言ってんだ? 寝る時間はいつも一緒だろ。まぁ、半分、気力尽きてぶっ倒れてるようなもんだが」
「……いや、そうじゃなくて。昼間、自分で言ったんでしょうが」
「………………あ? ひょっとして、そういうことか?」
「ったく、ほんとに鈍感だなぁ。一応、これでも勇気を振り絞ってるってのに」
「んな回りくど……って、ストレートになんか言えないか」
「当たり前でしょ。そっちだって言えないくせに」
「……無理だな」
「でしょ?」
「でも……その、なんだ、いいのか? 無理しなくていいんだぞ?」
「うわっ、この期に及んで怖じ気づく?」
「いや、そういうんじゃなくて……」
「あのね、女が……っていうか、あたしがこんなこと無理して言うと思うわけ?」
「…………いや」
「でしょ? だったら、ぐちぐち言うな」
「……時々思うんだが」
「ん?」
「お前って、すげー奴だな」
「いざってとき、女の方が度胸はあるもんよ」
「……だな」
「…………ね?」
「ん?」
「も少しだけ、こうしてていい?」
「…………ああ」

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