☆新しい幸せ〜永遠の幸せを君と共に〜☆


「なあ、久しぶりに、こみパへ行かないか?」

 俺はあさひにそう切り出した。

「えっ?」

 突然の俺の言葉に、思った通り、あさひは目を丸くした。
 あれから・・・あの春こみから六年が経った。
 俺達の娘、和妃(かずひ)も何事もなく成長し、こないだ五歳の誕生日を迎えた。
 最初は何かと苦労もあったものの、今では普通の家庭と同じようにつつがなく暮らしている。
 あさひが和妃のために小さな頃から本を読み聞かせていたため、和妃は本が好きになっていき、今では、マンガなどにも興味を持ち始めている。
 こみパはマンガのことを知るためには格好の場所だ。
 あの人込みに和妃が耐えられるか?あさひがパニックに陥らないか?
 そう言った不安はあるが、俺がついていれば何とかなるだろう。だから、俺はそう誘ったのだ。

「和妃もそれなりにマンガに興味を持ちだしてるし、マンガを知るにはこみパは絶好の場所だ。それに、俺自身久しぶりに行ってみたくなったんだ。二人の思い出の地に」

 そう、ホントはそっちが本音だったりする。

 六年間離れていた思い出の地。
 一年間同人作家として過ごした思い出の地。
 あさひと出会い、過ごした思い出の地。

 なぜか、無性に行ってみたくなったのだ。

「そうですね・・・。六年間も離れていましたものね。行きましょうか。こみパに。あたしも久しぶりに行きたいです」

 そう言ってあさひは笑った。
 日程なんかは分かっている。
 こみパは今、人気絶頂の漫画家「猪名川 由宇」と「大庭 詠美」そして絵本作家の「長谷部 彩」を生み出したことにより、漫画家や絵本作家達の登竜門となっていた。
 そんなわけで、こみパ会場からかなり離れているにもかかわらず、本屋などでこみパの情報が頻繁に、しかも、専門誌でなくとも載っていたり、カウンターに小冊子などが置かれるようになっていた。
 二、三年前からそう言う傾向が出始めていたが、この頃、その傾向が強く現れていた。
 最初の頃は和妃の子育てや、生活を安定させるのに必死で、趣味などにまで手が回らなかったが、この頃やっと余裕が出来てきたので、そいう言った物にも注意が行くようになり、こみパの情報が頭に強く残ったのだ。


 翌日、俺はこみパのカタログを近所の本屋で買ってから帰宅した。

「ただいま〜」

 そう言って家の中に入ると、

「パパ〜。お帰りなさ〜い」

 愛娘の和妃が玄関まで走ってきて、俺に抱きついてきた。

「あはは。ただいま。和妃」

 俺はそう言って、和妃を抱きとめた。

「お帰りなさい。和樹さん」

 そう言って、あさひも笑顔で玄関に顔を出してきた。

「ただいま。あさひ」

 あさひのその笑顔につられるように、俺の顔も自然とほころんだ。
 靴を脱いで家の中に入り、和妃をおろしてから、俺はこみパのカタログをテーブルの上に出した。

「あら。こみパのカタログですか?」

 表紙をのぞき込んできたあさひの声はわずかに弾んでいた。
 あさひも元々マンガやアニメが好きなので、こみパと聞くと童心にかえったような感じがするのだろう。

(まあ、俺もそうなんだけどな)

 あんまり乗り気だったとは言わないまでも、マンガを書き始めた頃の自分。
 そして、いつの間にかアニメやマンガにはまった自分。
 同人作家としてスランプに陥ったりしたときに、自分に勇気や希望と言った物を与えてくれたのはアニメやマンガだったような気がする。
 そして、ファンの人たちの言葉や笑顔だった。
 もっとも、一番そう言った物を与えてくれたのはあさひなのだが。

(やっぱ、変わってないんだな。あの頃と・・・)

 マンガやアニメと言ったのものと少なからず離れてしまったとはいえ、俺もあさひもやはり、完全に生活と切り離すことは出来なくなっていた。
 その証拠に、この頃はマンガなどを月に必ず三冊は買っている始末だ。

「ああ。由宇や詠美がかなり影響したらしいな。こんなに厚くなってるよ。俺が参加していたときはこの三分の一くらいだったな。確か」
「そうですねぇ〜。あたしもこんなに厚い本を持った覚えはないですねぇ〜」

 あさひが少しおっとりと言うか、間延びした声で感心したように言う。
 この頃のあさひは、子育てによって母親の貫禄がついたのか、多少のことではパニックを起こさないようになってきた。
 もっとも、俺がいると緊張するのか昼間に比べて失敗が多いようだ。
 昼間に致命的な失敗を犯したと言うことはこのところ聞かない。

(ホント、あさひはいつになっても初々しいよな)

 既に、結婚して五年、一緒に暮らして六年になると言うのにだ。
 そんなあさひを見ていると、自分までなぜか照れてしまうことがある。
 お互いまだまだ新婚気分に近い状態なのだろう。

「しかし・・・これじゃあ、当日はかなり混乱するんだろうなぁ〜。少し覚悟しといた方がいいかもしれないな」
「そうですね」

 俺とあさひは当日の状態をほとんど想像できないので、とりあえず、どんなに混んでいても驚かないように、心構えだけはしていこうと固く決意した。

「ねぇねぇ〜。何の話なの〜。和妃にも教えてよ〜」

 そんな思いをよそに、和妃は横ですねていた。
 俺とあさひは苦笑しながら、口々に謝罪をし、こみパの説明を始めた。
 そして、思い出話や、サークルカットなんかを見て盛り上がってしまい、寝たのは結局、夜の二時をまわってからだった。
 俺は明後日のこみパを思い浮かべながら、眠りについた。
 あさひとの思い出が頭の中を駆けめぐりながら。


「うっひゃあ〜。すごい人数だなぁ〜」

 会場に着くなり、俺は感嘆の声を上げてしまった。
 こみパ当日、始発電車に乗って、懐かしの地、こみっくパーティーへとやって来た俺達。
 一般入場はとうの昔に始まっており、既に二時間が経過している。
 にもかかわらず、六年前の始発電車で来たときと同じくらいの人間がまだ列を作っているのだ。

「そうですねぇ〜。六年前より増えてますよね〜。もう、入場が始まって二時間も経つのにこの人数なんですから」

 あさひもさすがに驚きを隠せない。
 混んでいるだろうとは思っていたが、ここまで混んでいるとは正直、予想外だったのだ。

「とりあえず並びましょう」
「そーだな。でも、いつになったら入れるかわからんなぁ〜」

 あさひはともかくとして、俺はこんな行列に並んだのは一番最初だけだ。
 後はサークル入場だったから、この行列を見て、並ぶのはあまり乗り気ではなかった。
 ただ、並ばなければ入れないし、自分から言い出した手前、やめようとも言えなかった。
 仕方なく、和妃を肩車して、あさひと列に並んだ。
 俺は、こみパの開催時間が延長されていることに納得がいった。
 俺達が入れたのは、六年前なら既に終了一時間前という時間だったからだ。
 これでは、後から来た奴には見て回る時間がない。
 スタッフとしても、延長せざるおえなかったのだろう。
 俺達は、事前に調べておいたサークルをまわった。
 いくら六年間離れていたと言っても、元々俺もあさひもこみパの常連者だ。その辺に抜かりはない。
 ただ、時間が時間だったために、手に入れられたのは、目を付けていた物のうち、三分の一にも満たなかった。
 俺達は、いったん人混みを抜けて通路へと出た。
 いくら常連だったとはいえ、この人数は辛かった。
 俺達でさえ辛いのだ、和妃はもっと辛かったに違いない。
 実際、中にいていろいろなところをまわっているうちは、物珍しげに目を輝かせてサークルのスペースを眺めていたが、通路に出てくると、ぐったりとして備え付けのいすに座り込んでしまった。

「和妃ちゃん。疲れた?」
「うん」

 あさひが和妃の体を心配して声をかけると、いかにも疲れたという風に和妃が答えた。

「まあ、無理もないだろう。俺達でさえ疲れるんだからな。しばらくはここで休憩しよう」
「そうですね。あたしも疲れました」

 あさひはそう言うが、その顔は晴れやかだった。
 やはり、久しぶりのこみパが楽しいのだろう。
 実際、俺も体に疲れは感じるが、気分は不思議とさわやかだ。
 あさひと同じく、こみパを楽しんでいるからだろう。


「まさか・・・そこにいるのは同士和樹か!?」

 通路のイスでしばし、あさひと久しぶりのこみパについて話していると、不意に聞き覚えのある声が聞こえた。
 間違えようのない、独特の声、しゃべり方、他にだれもまねしない俺の呼び方。まさか・・・

「九品仏 大志!?」

 六年前の忌々しい記憶の数々が頭の中を瞬時によぎり、反射的にイスから立ち上がり、俺は叫んでいた。眠っていた和妃がびっくりして起きるくらい大きな声だった。

「おおっ!!やはりそうか。久しいな、まいふれんど。六年ぶりと言ったところか?何の便りもなく、身を案じていたのだぞ?」
「嘘つけ。お前が人の体を心配するような奴だったら俺はあんなに同人作家時代困らなかったわ!!」

 そう。確かに、大志にはいろいろと助けられた。だが、それ以上に迷惑を被っているのだ。

「ふっ。そのような小さな事を気にするなど、世界の覇者の器にはふさわしくないぞ。貴様も世界制覇の野望を持ったことのある人間だったら、野望を捨てたとしてもおおらかな心を持たなければならんぞ。分かったかね、まいふれんど」
「やかましい!!」

 六年経てば少しは変わっているかと思ったが、こいつは全く変わっていない。

「ふっ。まあ、そんな些細なことはどうでもいい」
(よかねえっ!!)

 俺は心の中で毒ずきながらも、大志の次の言葉を待った。

 こいつが人の話を聞く人間でないことも変わっていないのだと言うことを今はっきりと認識したからだ。

「一体どうしてここにいるのだ?まさか、今更同人の世界に戻ろうと言うのではないだろうな?」

 わずかだが、大志の目に険しさが宿った。

(やれやれ。まだあのことを引きずってるみたいだな・・・)

 俺は六年前、世界制覇がどうのこうのと言うことに興味はないまでも、プロの漫画家になりたいとは思っていた。
 実際、その誘いが来たこともあった。
 だが、俺は全てを捨ててあさひと生きることを選んだ。
 大志にはもちろん止められた。

“今のお前では彼女を守り抜くことは出来ないだろう。だから、後五年待って、プロの漫画家になれ。そうすれば人目をはばかる必要はない。”と。

 確かに、そのときの俺は、「アイドル声優桜井 あさひ」と言う存在に釣り合う男ではなかった。
 だが、俺は五年待つことが出来なかった。
 いや、正確には自分の素直な気持ちを五年も胸に秘めておくことが出来なかったのだ。
 あんな状態で、不安なまま五年も過ごすことが出来なかった。
 たとえ、大志の言う通りにしても、俺はプロの漫画家になれなかっただろう。
 はっきりと分かる。
 自分の気持ちがどこかへ行っているのに、人の心を打つような作品が書けるわけがないからだ。
 だから、俺は大志の言うことに逆らい、あさひに会いに行った。
 言葉は伝えられなかったけど、俺の気持ちは通じた。
 そして、あさひはそれに対して、俺と生きることを選んでくれた。
 全てを捨ててでも。
 俺は後悔していなし、あさひもそのはずだ。だから、俺は言うことが出来る。

「まさか。俺にそんな資格があるなんて思っちゃいないさ。今日はただの客としてきたんだよ。和妃も大きくなって、マンガとかに興味を持ち始めたからな」
「和妃?」

 大志が眉根を寄せた。

「え?・・・ああ。そういえば、連絡してなかったんだから知る分けないか。和妃。おいで」

 俺は和妃のことを知らない大志のために和妃を紹介しようと思い、和妃を呼んだ。
 だが、和妃は歩いては来たものの、俺の足に捕まり、顔をわずかにのぞかせているだけで、なかなかそれ以上前に出ようとしない。

「あらあら。駄目よ、和妃ちゃん。パパのお友達にご挨拶しなきゃ」

 あさひが苦笑しながら、和妃を俺の横に立たせた。

「やだ。このおじちゃんなんだか怖いんだもん」

 和妃はそう言ってあさひの後ろに隠れてしまった。

「おっ、おじ・・・」

 これにはさすがの大志もショックを隠せないようだ。

(だろうなぁ〜。大志だってまだ24だもんなぁ〜)

 さすがに24でおじさん扱いは精神的ショックが強いだろう。

(しかし・・・)

 さすがは我が愛娘と言うべきか?
 あの大志を黙らせるとは・・・これは将来大物になるかもしれん。

「ごめんなさい、九品仏さん。この子ちょっと人見知りが激しくて」

 俺が親バカ的な思考に突入している間に、あさひが大志に謝罪していた。

(それにしても・・・)

 あさひも変わったよなぁ〜。
 昔なら、大志相手にもまともに話せなかっただろう。
 だが、今は完全に直っているとはいいがたいが、比較的あがり症の話し下手は直っていた。

「まさか・・・あさひちゃん?」

 茫然自失状態から回復した大志は、謝罪しているあさひを見て、目を丸くしていた。

(まあ、無理もないだろうな)

 あさひの昔を少しでも知っている人間なら、すぐに分かるだろう。
 今のあさひはかつての「アイドル声優桜井 あさひ」とは全く違った雰囲気を醸し出している。

「お久しぶりです」

 そう言って、あさひはにこやかに挨拶した。

「おお〜っ。なんと!?これが六年経ったあさひちゃんの姿か。昔の活動的な姿も感動的だったが、物腰柔らかく、女性としての魅力を醸し出す今の姿もまた違った感動を呼び寄せてくれるっ!! このようなあさひちゃんを見ることが出来るとは!!この九品仏大志、天にも昇る気分ですぞっ!!」

(また大志の病気が始まった・・・)

 大志はかつての桜井あさひファンクラブ会員ナンバー1番であり、さらには、熱狂的なファンでもあった。
 そして、自らの欲望に忠実だった。
 大学祭で、トークショー&ミニコンサートを企画、実施してしまったことがあるほどだ。
 しかも、ちゃっかりと自分で司会をやってたりする。

(これさえなければまだまだ好感の持てる奴なのだが・・・)

 大志のこういう、他人の迷惑を全く考えない行為が、周りのストレスの原因になるのだ。
 瑞希など、たまに殺意を覚えるほどだ。実際、俺も覚えたことがある。

「えっ・・・えっ?えっ、と・・・」

 あさひは突然の大志の言葉におたおたしてしまっている。

「こらこらこら。人の妻に向かって何言ってんだよ。それ以前にあさひが困ってんだろうが」

さらに何か言い募ろうとした大志の言葉を遮って俺は言った。

「・・・なに?今なんと言った?」

 とたんに大志が俺に対して、質問してくる。
 いや、質問と言うよりは詰問に近い。

「何が?」

 だいたい、どこのことを言っているのかは分かったが、俺はあえてとぼけて見せた。

「貴様・・・今、人の妻と言わなかったか?」

 案の定、そこだった。

「ああ。言ったぜ」

 俺はさらっと言ってやった。

「かっ、和樹さん・・・」

 見ると、あさひが真っ赤になってうつむいている。

「貴様!?いつの間に結婚などとふてぶてしいことを・・・」
「あっ?五年前だよ。和妃が生まれることが分かったんでな。入籍したんだ」

 実際、嘘ではなかった。
 真っ赤になって、子供が出来たと言われたとき、俺は驚きや、これからのことよりも、嬉しさが先に立ったものだ。
 だが、子供が出来たとなれば、同棲と言うわけにも行かない。
 だから、俺はあさひにプロポーズした。

 ただ、婚姻届を出しに行くだけ。
 結婚式も、新婚旅行も何もない。

 それまでと何一つ変わらない生活。
 ただ変わったことと言えば、お互いにつけている結婚指輪くらいな物だ。
 だが、それでもよかった。
 結婚したと言うことで、何か新鮮な物が生まれ、そして、今まで以上に幸せを感じることが出来たから。

「許さん!許さん!!許さんぞ!!!」

 突然、大志がわめきちらし始めた。

(まずい・・・)

 ちらっと見えた大志の目を見て、断言できる。
 完全にキレてる。
 大志は元々、温厚に近いタイプで、本気でキレる事は滅多になかった。
 俺は大志のキレたところを見たことがなかった。
 高校一年の時の、ただ一度を除いて。
 はっきり言って、温厚な奴ほど切れるとヤバイという言葉は大志の奴のためにあるような物だろう。
 自分がはまっているアニメの伊達眼鏡を激しく批判されたことが大志がキレた原因だった。
 大志は数度今と同じようにわめき散らしておとなしくなった。
 だが、本当に恐ろしかったのはそれからだった。
 大志はこう見えても頭がいい。
 証拠が残らないように細工を施しながら、数限りない犯行に及んだ。
 仕返しとか言える生やさしい物ではなかった。
 相手を精神的に追いつめ、肉体的にも小さな傷や痣が増えていった。
 相手も犯人が大志だと言うことが分かりながらも、教師や親を納得させるだけの証拠が見つからず、何もできないでいた。
 そして、二週間後、相手は涙ながらに大志に謝った。

「趣味を馬鹿にして悪かった」と。

 しかも、土下座をしてまで。
 大志の怖いところは、それを強制ではなく自主的にやらせようとするところだ。
 もし、相手が謝罪をしないようなら、大志はまだまだ続けていただろう。
 あの伊達眼鏡は大志の一番のお気に入りらしい。はっきり言って、俺も瑞希も格好悪いとは思う。
 だが、それを言えばどうなるのか。
 同じクラスだったのだから、瑞希も俺も分かっている。
 だから、あえてそれには触れないようにしている。

(しかし・・・)

 たとえ、自分の好きなアニメやマンガを批判されても、キレたことない大志がキレるとは。

(俺が一体何をしたってんだ!?)

「おい!大志、少しは落ち着け!!」

 俺はその後に何が起こるのか想像したくなかったし、もちろん被害者になりたくもなかった。
 だから、俺も声を荒らげ、大志を落ち着かせようとした。

「これが落ち着いていられるものか!!貴様は償いようのない罪を犯したのだぞ!?」

 完全に目が血走っている。
 このままでは・・・ん?償いようのない罪?

「おいこら、大志。何だ、その償いようのない罪ってのは!?」
「この期に及んで白々しい」

 俺の質問などはなっから聞く気がないらしい。

「だからっ!きちんと説明しろっ!!」
「なるほど・・・あくまでしらを切るというのだな。よかろう。貴様の罪を教えてやろう」
(・・・こいつ、完全に自分に酔ってやがる)

 こうなると、もう手が着けられないのはさっきのとうりというか、全く変わっていない。

「貴様が結婚式に我が輩を呼ばなかったことだ。あさひちゃんの晴れ舞台を我が輩に見せないなどと・・・これ以上の罪があるものか!!」

「何だよ。結婚式に呼ばなかったこと・・・はい!?」

 大志は完全に誤解をしているようだ。

「ちょっと待て。確かに結婚はしたが・・・」
「あれ?和樹じゃない」

 大志の誤解を解こうとした矢先に、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
 そう、高瀬 瑞希だ。

「あ?瑞希じゃねえか。久しぶりだな」

 俺は平然と挨拶をした。

「久しぶりだな、じゃないわよ。帰って来るんだったら、連絡の一つくらいよこしなさいよ。それ以前に、定期的に連絡しなさいよ。あんたから来たのって、何年か前の手紙だけなのよ?」
「あはは。悪い悪い。なんせ、こっちにも色々あってな。ついつい忘れちまうんだ」

 確かに、ここ最近、連絡を取った覚えはなかった。

「何!?同士瑞希よ。我が輩は初耳だぞ。同士和樹から連絡があったなどと・・・」

 それを聞き、瑞希が怪訝な顔をして聞いてきた。

「あれ?あんた大志に連絡とってなかったの?私てっきり同じように手紙送ったのかと思ってた」
「ああ。あさひは送ったほうがいいって言ったんだけどな。俺がやめさせた。大志のことだ、手紙出したら、どんな手段使ってでも居場所突き止めて乗り込んできそうだったからな」

 実際、こいつの行動力とネットワークはすさまじいものがある。
 下手に情報を流そうもんなら、どうなるか分かったもんじゃない。

「・・・確かにそうね。それに関してはあんたの選択は正しいわ」

 大志のキレ具合を知っているだけに、瑞希もあっさりと納得した。

「パパー。このお姉ちゃん誰なのー?」

 どうやら、お姉ちゃんと言うのは瑞希のことらしい。
 和妃がズボンの端を引っ張って聞いてきた。

「ん?ああ。こいつはパパの知り合いの高瀬 瑞希だ」
(・・・大志のことは怖がってたのに、なぜ瑞希は怖がらないんだ?)

 俺は不思議に思いながらも、簡単に瑞希の事を紹介してやった。

「あら?ひょっとしてこの子・・・」
「ああ。俺とあさひの子だ」
「和妃ちゃん。きちんとご挨拶しなきゃ駄目でしょう?」

 俺が瑞希に説明している間にあさひが和妃にさっき大志に言ったことと同じ事を言っている。

「はーい。初めまして。千堂 和妃です」

 そう言って、和妃はぺこっとお辞儀をした。

「初めまして、和妃ちゃん。私は高瀬 瑞希よ」

 同じように、瑞希も自己紹介をした。

「あっ、えっと、初めまして。・・・千堂 あさひです。旧姓は桜井です」

 どうやら、あさひは自分も瑞希に初対面であることに気がついて、自己紹介をした。

「はじめまして」

 瑞希も挨拶をした。

 ・・・この時点で、大志は完全に除外されている。

「しっかし・・・和樹の子供なのに何でこんなに素直なのかしら?世の中って不思議ね。・・・あっ、そっか。あさひちゃんがお母さんだからか」
「おい。ずいぶんな物言いだな」
(・・・まあ、自分が必ずしも素直な奴だとは言えんが)

 事実だとしても、やはりしゃくにさわる。

「さて、自己紹介は済んだようだし、我が輩の質問に答えてもらおうか」
「あっ、そういえば忘れてた。すまんな、大志。んで、何だ?」
「なぜ、我が輩を結婚式に呼ばなかったのかと聞いているのだ!」

 それを聞き、今度は瑞希が眉根を寄せた。

「あんた達、結婚式あげたの?入籍したって事は手紙で知ってるけど。私も初耳よ?」
「こらこらこら。それは大志の勘違いだ。確かに、入籍、つまり結婚はしたが、式は挙げてねぇよ。なあ?あさひ」

 俺1人何を言っても、大志は納得しないだろうと思い、あさひに話を振った。

「ええ。式は挙げてません。いろいろとごちゃごちゃしてましたし」
「・・・なるほど、あさひちゃんがそう言うなら信用しよう」

 あさひの言葉を聞いて、ようやく大志も納得したようだ。

「しかし・・・結婚しているのになぜ式を挙げないのだ?」

 落ち着いたらしい大志が聞いてきた。

「ん?ああ。入籍したのは五年前でな。丁度、和妃が生まれる前だったんだ。んで、和妃が生まれて、子育てやら何やらでいろいろと大変だったんでな。結局、挙げずじまいなんだ」

 実際、出産だけでもいろいろと大変だったのに、子育てがあるから、その苦労は並大抵の物ではない。
 俺はほとんど役には立たなかったし、あさひも初めての、しかもハプニング続発の子育てではおたおたしっぱなしだった。
 あさひが慣れるまでは俺も本などを片手に脂汗をだらだら流しながらあさひの手伝いをしたものだ。
 結局、あさひが慣れたのは和妃が四歳になってから、つまり、去年だ。
 和妃が落ち着いたという見方もできるが・・・。
 それまでは、本やら病院やらの手助けを借りながら何とかやってきたという状況だ。
 よく、致命的なミスがなかったと思う。
 実際、危なくなることは何度もあったが、いろいろな人たちの協力を得て、無事乗り切ってきた。

「何や、てっきり相手の両親に反対されて二度目の駆け落ちしたんで挙げられへんのかと思ったわ」
「なっ、猪名川 由宇!?」

 突如、背後からかけられた関西弁に、俺は思わず名前を口走っていた。
 とゆーか、関西弁を喋る知り合いは俺には1人しかいないからすぐ分かっただけの話だが。

「久しぶりやな。和樹。元気にしとったか?」

 由宇が片手を挙げてにこやかに挨拶している。

(・・・何を企んでんだ?由宇の奴)

 由宇がこんな顔をしているときは、何か企んでるときか、即売会で売り子をしているときかどちらかしかない。

「ああ。一応元気だが・・・何で、二回も駆け落ちをしなきゃならんのだ。あさひの両親にはきちんと会ったよ」

 あさひの両親には、入籍する前、正確には、あさひの妊娠が分かる前に一度挨拶に行っている。
 そのときの俺は、これ以上ないくらい緊張していたものだ。
 何せ、あさひに落ち着いてくださいなどと言われるくらいだったのだから、その辺は容易に想像がつくと思う。しかし、あさひの両親は以外に(こう言うと失礼かもしれないが)友好的に俺とあさひを迎えてくれた。
 春こみのことはあさひの両親も知っており、ほとんど駆け落ち同然だったにも関わらず、笑顔で俺達の仲を容認してくれた。
 もっとも、いろいろとそのときの状況を聞かれはしたが。
 俺の両親のとこに行ったときには、俺でさえびっくりするくらいの反応をされたもんだ。
 母親はいかにも安心したという顔をし、連絡くらいしなさいと注意されたが・・・父親はすごかった。
 なんせ、よくやっただの、それでこそ男だなどと、訳のわからんことを口走っていた。
 まあ、俺の両親も、特に俺達の仲については何も言わなかった。

(そう言えば・・・どっちも結婚だ何だと騒がなかったな)

 俺達自身、あまり結婚と言うことを考えていなかった。
 将来的にしようとは思っていたが、そのときは、二人一緒にいられればそれだけでよかったし、結婚自体に意味のある物だとは思わなかったのだ。

「へぇ〜。ってことは、両親に反対されて駆け落ちしたから結婚式挙げられないの?」

 これは瑞希だ。どうやら、意地でも駆け落ちに持っていきたいらしい。

「だ〜か〜ら〜。どーしてお前らは駆け落ちに持って行くんだ!俺の両親もあさひの両親も、きちんと了承してくれたわ!!」

 俺は必死になって言った。

 普通の奴らなら、ほっとけで済むのだが、こいつらは放っておくと何をしでかすかわからんのだ。
 どんな風に話を誇張するか保証できないし、何より危なすぎる。

「パパ〜。かけおちってなあに〜?」
「「「「「えっ!?」」」」」

 その一言に、期せずして全員の声が重なり、皆一様に固まってしまった。

「かっ、和妃ちゃんもおっきくなったら分かるから、いまは知らなくてもいいのよ」

 定番のいいわけをぎこちない笑顔であさひが言う。

「ふ〜ん」

 不承不承ながら、納得したようだ。
 内心、ほっとした。はっきり言って、こんな事を五歳の子供に教える気にはなれない。

(・・・このいいわけも後何年持つかわからんな)

 典型的な親の悩みの一つだろう。

「し、しかし・・・両方の親が了承したのなら、結婚式を挙げても問題はないのだな?」

 とぎれた間を持たすように、大志が切り出した。

「えっ?・・・ああ、まあ、そうだな。特に問題はないが・・・それがどうかしたのか?」

 俺は訳が分からず聞き返した。

「ならば・・・たねがしまで結婚式を挙げようではないかっ!!まいふれんどよ」
「「えっ!?」」

 俺とあさひは思いもよらない大志の言葉に、同じタイミングで驚きの声をあげていた。

「そらええアイデアや。知り合い集めて派手にやろか」
「そうねぇ〜。おもしろそ」
「・・・」
「・・・」

 俺とあさひは、話の流れについていけず、ただ、呆然と話を聞いているだけだった。

「あのさぁ、今更結婚式なんか挙げなくても」

 とたんに、三人の視線が俺に集まる。

「何を言うかっ!まいふれんど。結婚しているのに、結婚式を挙げないなどと」
「そうやで。それに、こんなおもろいイベントほっとけるかいな」
「女の子にとって、結婚式ってのは人生の中で一、二を争うほどのイベントなのよ」

 その勢いに圧倒しながらも、俺は反論に出た。

「いや、別に式を挙げるのを否定しているわけではなくてだな、今更気恥ずかしいというか何というか・・・」
「ええ。そうですよね。六年経っているのに結婚式を挙げるって言うのも・・・」

 俺達の意見は同じだったのだが、それを聞いたとたんに、またもや三人の視線が突き刺さる。

「そのようなことは、普通の結婚式でも同じはずだ。気にする必要は全くないぞ」
「式の段取りやなんかはうちらがやるさかい、気にせんでいいで」
「駄目よ。あさひちゃん。こういうのはきちんとしとかなきゃ。時季はずれだって何だって関係ないわ」

 どうやら、本人達の意志とは関係なく話は進むらしい。

「・・・諦めた方が良さそうだな」
「・・・そうですね」

 俺達は同時にはぁ、と溜息をついた。


・・・そして、一週間後・・・

 俺は、白いタキシードに身を包み、時間を待っていた。
 なんやかんやで、アッという間に時間は流れ、結婚式を挙げることになってしまった。
 普通は挙式に半年近くかかるらしいのだが、式場が即売会御用達の結婚式場であるたねがしまと言うことと、大志が主だって動き、瑞希や由宇も積極的に動いたため、異常な早さで事態は進行し記録的な速さで挙式することになったのだ。

(まさか、一週間で式が出来る状態になるとはな・・・)

 今、ここにいても信じられないくらいだ。

(まあ、あの大志が動いているんだから、仕方がないか・・・)

 こういう場面での大志の動き方は既に人知を越えている。
 今日、ここで、俺とあさひは結婚式を挙げる。
 六年前は、婚姻届を出して、そろいの指輪を自分たちで交換しただけの簡単な結婚だった。
 だが、今回は違う。
 きちんとした、立派な式だ。
 全てが揃い、大勢の人たちが列席する。

(今日、ここが俺達の新しい出発なんだな・・・)

 六年前にも思ったことだが、今回は少し違う。
 大勢の人の前で、正式に夫婦となるのだ。
 そう、今日、この場で・・・。
 新しい幸せを手に入れる・・・。
 そして、永遠に二人で歩んでいこう・・・。
 共に生きられる幸せをかみしめながら・・・。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
どもー。魂弐置輪(こんにちわ)。守護雷帝(しゅごらいてい)です。
いかがでしたか?こみパ・あさひちゃんのSS第一弾。
・・・自己分析の結果、盛り上がりに欠けると言うことが浮き彫りになりました(笑)。
あはは、あさひちゃんがこもパの中で一番好きなんですけどねぇ〜。
アフターストーリィは難しいシナリオですねぇ〜。・・・自分はですけど(爆)。
ま、まあ、雷帝はまだまだ初心者(SSはまだ三作目。こみパは初)なんで、大目に見てください(笑)。


このSSは、呼んでいただければおわかりになる通り、エンディング(春こみ)から、六年が経過していることになっています。なんで、当然、子供も成長しています。名前の和妃というのは・・・まあ、安易に想像がつくでしょう(笑)。
そうです、私が変なおじさんです・・・じゃなくって(爆)、和樹とあさひを混ぜて字を当てはめて命名しました。・・・ひねりも意味も何にもねぇ(爆死)。
えっと、あさひちゃんの性格から考えて、子育てがあんまうまくいかないんじゃないかなぁ〜、と思って書いたんですが・・・書き終わってよく考えてみると、何となく、きちんと子育てできてるみたいなんですよね(笑)。
しかし、それはそれ、これはこれとして考えてください(爆)。お願いします(懇願)。
で、んなもんだから、結婚式なんかは出来ないだろうし、既に六年も経ってれば、結婚式なんてわざわざしようと考えないんじゃないかなぁ〜、と思ったんで、大志やら由宇やら瑞希やらを出したわけです。

もちろん、こいつらがいるんで、ギャグも入ってます。笑えないかもしれないけど・・・(汗)。
強引なキャラ出さないと、結婚式やらなそうな夫婦だったんで。
まあ、その辺はかなり、雷帝の偏見が混じってるんで、気にせんどいてください(爆)。
ではでは、もし、機会があればまたお会いしましょう。ごっきげんよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!


作成日 11/09 執筆者 守護雷帝 
           


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