| もう、何年も前になる。 誰もが忘れてしまい、その存在自体が消えてしまった人間がいた。 幼い頃、その人生に絶望し、失う物がない「えいえんの世界」を望んだ少年が。 少年は盟約を交わし、その運命の鎖に縛られた。 やがて、その記憶から忘れ去られた頃になり、ソレはやってきた。 徐々に徐々に少年は忘れられていき、少年は『消えた』。 しかし、たった一人だけ少年のことを覚えていた少女がいた。 川名 みさき─。 光を失い、一度は全てに絶望しながらも、明るく生き続ける少女。 だが、その明るさも学校という、幼い頃からの聖地でのみだった。 少年は少女に惹かれ、少女を聖地から解き放つことに成功した。 だが、少年はその瞬間にこの世界から姿を消した。 少女は少年との思い出を心に抱き、帰りを待った。 桜が散る春の日も、太陽が照りつける夏の日も、紅葉が彩る秋の日も、寒さが体に突き刺さる冬の日も─。 そして、少年と少女は再会を果たす………。 Moon Shine〜見えない奇跡〜 「それにしても、みさきが酒に誘うなんて珍しいな。どういった風の吹き回しだ?」 俺はみさきに酒をつぎながら、そうきりだした。今、俺達はみさきの家からほど近い居酒屋に来ている。 「ただ、飲みたくなっただけだよ」 「ほぉ〜。一杯日本酒飲んだだけで倒れたヤツの台詞じゃないな」 どうやら、みさきは酒に弱いらしく、初めて飲んだときはすぐに酔いつぶれてしまったのだ。 「浩平、意地悪だよ。初めてだったんだから、しょうがないでしょ〜」 みさきが、ぷくっと頬を膨らませる。 「ははは。いじけるなって。でも、飲んでも平気なのか?」 確かに、酒を飲むのは嫌いじゃないし、みさきと飲むならなおさらだが、無理させるわけにはいかない。 「ふっふっふっ。勿論♪家でお酒飲んで、鍛えたからね」 「ほほう。どこまで耐えられるか楽しみだな」 勝ち誇るみさきに、俺は笑みを浮かべながら言う。 だいたい、一時間は経っただろうか?世間話やら何やらをしながら、俺とみさきは始終明るいまま飲んでいたのだが……… 「みさき………平気か?随分と顔が赤いが………」 「平気だよぉ〜うふふ〜」 「うふふ〜って………キャラじゃないぞ。と言うか、そろそろやめとけ」 俺は、更に酒をつごうとしているみさきから、徳利を取り上げる。 「うぅ〜浩平君の意地悪ぅ〜」 どうやら、みさきは完全に酔っているらしい。 「分かったから。ほら、出るぞ」 俺は、みさきを引っ張り店の外へと出る。冬とは言え、酒で火照っている体には丁度良い風が吹いていた。 「うぅ〜お酒、もっと飲むのぉ〜」 「これ以上飲んだら、仕事に影響出るぞ?酒なら、また今度つきあってやるから、な?」 「うぅ〜分かったよ」 渋々ながら、みさきは納得してくれた。どうやら、意識はしっかりしているらしい。 「このまま帰っても色々まずいからな。少し、散歩でもしてくか?」 「うん、そうだねぇ。風が気持ちいいしぃ〜」 「そうだな………。久しぶりに、あの公園にでも行ってみるか」 勿論、俺達の間であの公園と言ったら、あそこしかない。 「うん。そうだね。行ってみよう、あの公園に」 ほどなくして、俺達二人は最初にデートし、かつて俺が消えたあの公園に着いた。 「みさき、着いたぞ」 「うーん。桜………咲いてないね」 みさきは、随分と悲しそうだ。無理もないだろう。みさきにとって、今の公園では、そこにいるという実感がわかないのだろう。 「そうだな。まだ、冬だからな」 「ねぇ、浩平。今度、お花見来ようよ。雪ちゃんとか誘って」 「いいけど………みさきのことだから、花より団子じゃないのか?」 「そんなこと無いよぉ〜」 俺の冗談に、みさきが拗ねる。俺は、そんなみさきが心底愛おしいと思う。 「なぁ、みさき」 「うん?どうしたの?」 「みさきにさ、受け取って欲しい物があるんだ」 「え?なになに?」 嬉々とするみさきの手を取って、俺はあらかじめ買ってあった指輪を、意を決してみさきの指にはめる。 「こう………へい?」 案の定、みさきはびっくりしている。と言うよりは、何が起こったのか分からないと言う方が正しいかもしれない。 「そんなに高い物じゃないけど、俺の気持ちだ。みさき、結婚してくれ」 俺は、みさきの何も映さない瞳を見て言う。率直に、自分の気持ちを。 「ごめん、浩平。少し………考えさせてくれないかな」 震える声でみさきが言う。 みさきが何を思っているか、ある程度は想像がつく。けど、俺はあえて、何も言わない。 「返事は別に急がないよ。ゆっくり考えてくれて構わない」 「うん、ごめんね」 「ほら、帰ろう。いくら何でも、風邪ひいちまう」 俺はそう言ってみさきの手を取り、公園を後にした。 帰りは、浩平も私も始終無言だった。 私は、頭がいっぱいだったせいだけど、浩平はたぶんそんな私に気を使ってくれたんだと思う。 意地悪だけどさりげなく優しくて、誰よりも大好きな浩平。悩むことはないはずなのに………。 「ほら、着いたぞ」 「あ、うん。ありがとう。それじゃあ、お休み」 「ああ、お休み」 私は、浩平と別れて慣れた門をくぐる。少なくとも、足取りだけは軽く。 帰ってからも、私の気分は沈んだままだった。 本当なら、飛び上がって喜びたいのに、私の『盲目』と言うハンデがそれをさせない。浩平は、そう言うことは気にしない人だ。 でも、だからこそ気付いていない。盲目の人間と暮らすことがどれだけの負担になるのかを。 実の親子でも相当の負担のはずなのに、いくら愛しているからとは言え他人がその負担を背負いきれるかだろうか?ましてや、現状だけにとどまるか分からないのだ。 でも、そこまで考えられるほどに好きになった浩平と別れるのが辛い。 「はぁ〜どうすれば良いんだろう………?」 浩平は自分を信じて良いと言った。だから、私はずっと浩平を信じ続けてきた。どんなときであっても………。 先ほどまで夜空に輝いていた月は雲に隠れ、辺り一面を闇が支配している。 そんな中、一組の男女がやってきた。川名みさき、折原浩平の二人がこの公園に。 「ねぇ、浩平」 みさきがぽつりと声を漏らす。消え入りそうなホントにわずかな声を。 「どうした?」 しかし、浩平はそんな声も聞き逃すことをしない。 「浩平の気持ちはすごく嬉しいよ?でも、やっぱり、ダメだよ。浩平は、私と暮らすことの苦労、分かってないよ。今だって、すごく苦労してるでしょ?なのに、これ以上苦労させられないよ」 浩平に顔を見せないまま、震える声でみさきはそう告げる。 「………」 しかし、浩平は顔色一つ変えずにじっとみさきの背中を見続けている。 「私と結婚したって、絶対不幸になるだけだよ」 「言いたいことはそれだけか?」 絞り出すような浩平の声に、みさきは驚いて振り返る。みさきはその顔を見ることは出来ない。 しかし、浩平の気持ちは十分に伝わってきた。未だかつてみさきの前では見せたことのない─怒りの気持ちが。 「苦労?俺は一度たりともそんなことを思ったことはない。不幸になる?そんなもんに、俺は絶対にならない。俺にとっての幸せってのは、みさきと一緒にずっといることなんだ」 静かな、それでいて力強い浩平の言葉は、間違いなく本当の気持ちの現れだ。 「で、でも………」 「前にも言ったはずだ。『迷惑がかかるから』なんて理由で断るなら俺だって怒るって」 みさきの抗弁を遮り、浩平は続ける。その言葉を聞き、みさきは黙り込んでしまう。 先ほどまで空を覆っていた雲が晴れ、月が辺りを照らし出す。 月光に照らされたみさきの表情に、迷いはなかった。 「私………バカだから、言葉通りに受け取るよ?」 「受け取ってくれ」 「後悔しても、知らないよ?」 「ああ」 「本当に………信じて良いんだよね?」 「………ああ」 あのときの繰り返し。でも、二人の絆は比ではないほどに強くなった。そして、有限の中で永遠の時を二人で歩んでいく。 そう、月明かりの立ち会いの元、幸せの盟約を二人は交わしたのだ。 〜Never End Most Happy Life〜 と言うわけで、脱Kanon&こみパの初SSはいかかでしたでしょう?でも、結局はONEだったりするんですが(笑)。 元々、ONEのSSは書こうと思ってたんで、そろそろいい時期かなぁ〜と。なんでいい時期なのかは気にしないお約束です(爆)。 まぁ、かなり召されている&後々に締め切り云々が詰まっていたりするので、内容はあまり良い物とは言えないと言うのが残念かなぁ〜との感想を持っています。 実は、今回浩平→みさき→第3者視点という視点変更を使用してみました。 SSで視点変更というのは、短さの関係上鬱陶しい印象が強くなってしまう可能性が高いと思っていたのですが、いかがなもんでしょう? さて、とりあえず、今回はこの辺で。この後にも色々と書かねばならない物が大量に存在しているので………(泣)(注:H12・8・9現在)。 次回作をお楽しみに〜であであなのだ〜。 |