それはほんの偶然だった。
何気なく、いつも通りにしていたら、ふと目に留まっただけ。そして、いつもどおり通り過ぎるだけ。
でも、どうしても気になって仕方がなかった。
そして、気が付くと私はそこにいた。でも、そのまま通り過ぎてしまう。
何回そうしただろう?ふと、声を掛けられた。

「どうぞ、見ていって下さい」

その一言が私の人生を変える運命の言葉だった‥‥‥。



Courage Word〜たった一言が欲しい〜



プルルループルルルー


「えっ?で、電話?」

 あたしは、深呼吸を一つして、電話に出る。

「は、はい。桜井です」

 やっぱり、声が震えてしまう。
 相手が見えない電話なのに、いつもこうだ。どうしても、うまく話せない。

(こうならないために、声優になったのに‥‥‥)

 でも、うまくなったのは台本読みだけ。いつまで経っても自分で考えて自分で話すのは苦手。

「あっ、もしもし?あさひちゃん?俺、和樹だけど」
「えっ?和樹さん?こっ、ここ、こんにちわ」

 電話は、和樹さんからだった。こみパで偶然会ったサークルの人。そして、あたしが惹かれた人。
 最初はただのファンだった。ただ、和樹さんの本に惹かれた一人のファン。
 でも、ある時その関係は突然に崩れる。その原因は、一つの放送だった。
 人生なんて、何がきっかけで変わるかなんて全く分からない。たった一つの放送のせいで、あたしの正体がばれてしまった。
 あたしが、「アイドル声優 桜井あさひ」だと言うことが。
 本当は騙すつもりなんて、隠すつもりなんて無かった。でも、分かってしまったら、他の人たちと同じように‥‥‥。

 それが怖かった。
 それが嫌だった。
 偽りの自分ばかり人に見せるのは。
 そんなことをばらすのが。

 だから、黙っていた。けれど、ばれてしまった。しょせんは嘘。いつかばれる事なんて分かってた。
 でも、和樹さんは、何も言わなかった。
 あたしを、「アイドル声優 桜井あさひ」としてではなく「桜井あさひ」と言う一人の女の子としてみてくれた。
 それが嬉しかった。
 そして、それからも、色々と相談に乗ってくれて、色々なところに遊びに行って、色々なことをお話しして‥‥‥。

 いつしか、あたしは和樹さんに惹かれていった。ファンとしてではなく、一人の女の子として‥‥‥。

「それじゃね」
「はい、さよなら」

 電話は、クリスマスのお誘いだった。
 でも、その日は事務所の忘年会。出ないわけにはいかなかった。出たところで、何かあるわけでも無いのに‥‥‥。

「どうせ、あたしは偉い人に挨拶だけして、後は壁際で一人寂しくいるしかないんだから‥‥‥」

 去年も、その前もそうだった。あたしに話しかけてくる人がいても、マネージャーさんとかが話を逸らしてしまう。
 ボロを出させるわけにはいかないからだ。こんな事が知られたら、それこそスキャンダル。
 だから、必死に隠している。

「はぁ〜。考えるだけで憂鬱だな」

 あたしは、窓の外を横目で見た。
 外はそろそろ夕焼けが眩しくなってきた。あたしは立ち上がり、カーテンを閉めようとした。窓際まで行くと、窓の外の光景に目を奪われてしまった。
 いつも見慣れているはずの景色なのに、こんな綺麗な夕焼けに見えるなんて。
 あたしは、しばしその夕焼けに目を奪われたまま動くことができなかった‥‥‥。


 今日は久々のオフ。掃除や洗濯など、必要なことはやり終えてしまったが、時間が余ってしまった。

「少し、出かけようかな」

 特に行きたいところがあるわけでもなかったけど、家でじっとしているよりはましだから。そう思って、あたしは支度を始める。

「あっ!忘れるところだった。今日は和樹さんに会う訳じゃないから、メガネをかけないと」

 街を普通に歩いてると、簡単に正体がばれてしまう。いくら何でも、そんなことにはなりたくない。なったら、どんなことになるかは安易に想像がつく。
 家を出て、まずは駅前に行くことにした。
 駅前はクリスマス一色。
 威勢のいい、ケーキの販売勧誘。いい匂いのする、フライドチキン。そして、色鮮やかなクリスマスツリー。
 クリスマスの日になると、数多くのカップルがさぞ幸せそうに歩くのだろう。
 あたしは、とりあえず本屋に行くことにした。色々と発売している物があるかもしれない。年末はどこも休みを取るから、今の時期に一番物が出る。
 私は、少し大きめの本屋に行き、中をぶらっと見て回る。マンガと小説をチェックして、まだ持っていない本とか、気になる作品を確認する。
 そこで、ふと目に止まった本がある。
 若い女性向けの雑誌だ。
 今は季節と言うこともあって、クリスマスの特集を組んでいる。何気なく手にとって、中を見る。
 そこには、あたしの知らない世界があった。

 “クリスマスは好きな人(恋人)と過ごす日”

 それはあたしが知らなかったものだった。好きな人と‥‥‥。

(あたしの好きな人は‥‥‥)

 その後、あたしはその雑誌と欲しい本を買って帰ったが、本を読む気には全然なれなかった‥‥‥。


“クリスマスは好きな人(恋人)と過ごす日”

 その言葉が頭から離れなかった。
 今まで何となく過ごしてきたクリスマス。でも、今年は何となく違うような気がしてきた。自分の気持ちがだんだんと分かってきたから。
 だから、特別な日にしたかった。

(でも、あたしなんか‥‥‥)

 そう、自分の気持ちがそうでも相手も同じだとは限らない。拒絶されることを考えると、怖くてたまらない。

(ううん。やってみなくちゃ分からない。確率は低いかもしれないけど、0じゃないはず‥‥‥)

 あたしは、勇気を出すために自分にそう言い聞かせた。


 あたしは家に帰ってから、買ったまましまいっぱなしの雑誌を引っぱり出してきた。ふと気になって買ったあの雑誌だ。
 どきどきする胸を深呼吸で整えて、表紙をめくる。それから後は、時間さえ忘れるほどの読むことに没頭していた。
 そして、気が付くと既に日は暮れて、夜のとばりがおり始める時間帯だった‥‥‥。


 あたしは朝からどきどきしっぱなしだった。多少眠ったとは言え、やや寝不足ぎみ。でも、そんなことを感じさせないくらい、気持ちは高ぶっていた。

 期待と不安。
 喜びと恐れ。

そんな矛盾を胸に抱えつつ、一分一秒を過ごしていく。遅くて仕方がない時計の針の進み。でも、気が付くといつの間にか進んでいる。過ぎてみれば、一瞬のような感じ。
たぶん、感情の高ぶりがそんな風に感じさせているのだろう。
 和樹さんのアパートの近くまで来ると、だんだん頭が真っ白になっていくのが分かった。
 でも、不思議といつもみたいな焦りはない。むしろ、それが心地良いくらいだ。
 あたしは、高鳴る心臓を押さえつつ、勇気を振り絞ってインターホンを押す。
 すると、すぐに和樹さんが出てきた。やっぱり、あたしがきたことに驚いているようだった。当然だろう。事務所の忘年会があると言って誘いを断ったのだから。でも、そんなあたしを和樹さんは嫌な顔一つせずに受け入れてくれた。
 すごく嬉しかった。和樹さんがあたしを好きじゃなくても、あたしが好きになった和樹さんがそこにいる。友達としてだとしても、あたしを支えてくれる。それが、何よりも嬉しかった。
 でも、案の定、あたしが忘年会を抜けてきたことを告げると、和樹さんは驚いた。
 でも、あたしは和樹さんに会いたかった。意味のないクリスマスじゃなくて、好きな人と過ごすクリスマスにしたかった。
 たとえ、それが片思いだとしても。

(でも‥‥‥)

 もしかしたら、なんて事を考えて、雑誌に書いてあったとおりにする。
 そして、出来る限り和樹さんが楽しめそうな話題を話すようにした。
 でも、和樹さんは違ったみたい。やっぱり、あたしのことは気にならないみたいだった。気になるって言われたのだって、あたしの態度がわざとらしいって言うことだけだった。

(これ以上居ても、和樹さんに不愉快な思いをさせるだけ‥‥‥)

 もし、これ以上不愉快な思いをさせてしまえば嫌われてしまうかもしれない。たとえ、自分の気持ちが届かなくても、それだけは嫌だった。だから、あたしは帰る事にした。
 でもそうじゃなかった。
 あたしは‥‥‥和樹さんから、あたしが一番欲しかった言葉が貰えた。
 俺の彼女‥‥‥好きだという言葉を。
 そして、あたしからも自分の正直な言葉をプレゼントした。
 たった一言‥‥‥「大好きです」って。



 卒業。

 それは何も、学校だけで使われる言葉ではない。
 今までの自分と違う自分になったとき、人は今までの自分から卒業する。人は成長をそう呼ぶが、何もそれだとは限らない。成長しなくったって、卒業は出来る。

 そう、自分の気持ちに素直になれれば、それは立派な卒業だ。


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
♪♪あとがき〜♪♪


 てなわけで、お初でルンバ♪(謎)え〜んど!おひさおひさで三千里〜♪(謎)な守護雷帝です。
 早いもので、もう春の暦の見え始めた頃。ワイは花粉症と闘っている毎日です(笑)。皆さんはいかがですかな?楽しく春までの暦を指折り数えている人がどれだけ居るんだろう?(笑)
 高校生にとっては最も辛い時期ですな。なんせ、進級が決まる時期ですから(爆)。かくいうワイも、少し冷や汗たら〜んな状況だったりします(大爆)。

「だったら、SSなんか書いてるなよ」

とかおっしゃる方もいらっしゃるかもしれませんけど、ワイの試験はとっくに終わって、後は結果を待つだけ。もうどーでもいーや、てな感じです(核爆)。

 さて、身の上話はこれくらいにして、本題に入りまひょか。
 今回のこのSSは、ある企画に参加するに当たって、KanonSSと一緒に投稿した物です。
 kanonSSもそうですが、「卒業」と言うのが今回のテーマなので、両方ともそうなっているはずです(笑)。
 まぁ、こみパを選んだ理由は特にないんですが、強いて言うならダチに貸していたのが帰ってきたので、久々にやりたくなってやっていたら、丁度この企画に参加することになったんですわ。
 最初からkanonSSで行くつもりだったんですけど、ゲームやっているうちにKanonSSよりも先に浮かんできたのがこのネタ(笑)。このままボツにするのも悔しいから、どうせなら書いてやれ、となったわけです。
 しかし‥‥‥なんか、ありきたりなもんになってしまった。どこにでもぽんぽんぽんぽん転がっていそうなネタばかり‥‥‥。
 こんな貧困な発想力でいい小説(SS)なんて書けないだろうに‥‥‥。
 まぁ、しゃーないか(笑)。感想とかはぜひとも送って下さい。やはり、そう言うのは励みになりますから。よろしくお願いします。
 であであ!次に作品が出たら、その作品のあとがきで合いませう‥‥‥。


作成日 2000.3.1



戻る