林 和宏は、黒鞘 燐と並び、校舎内を緩やかな歩調で歩いていた。 だが、その表情には、憮然としたもの以外は、全く浮かんでいない。見るからに不機嫌という感じだ。それに対して、燐はというと、やはりいつも通り、弛んだ表情をしている。 「というわけでぇ〜この学園はぁ施設内にあらゆる面でのぉ防護処置が施されています〜」 だが、ただ一つ違うのは、その口調に敬語が混じっているところだ。 そして、その言葉は、二人の背後に続く十数名の男女に向けられている。その男女は、熱心に燐の話に聞きながら、周囲を物珍しそうに見回している。 「あの、その、この廊下とかにもですか?」 と、その中の一人が、おずおずと問いかけてきた。 燐は、体を反転させ、後ろ歩きになりながらにっこりと笑って答える。 「はい〜。学園はぁあらゆる行動が戦闘行為にぃ密接に関係していると考えています〜。そのためぇ通常の状態でもぉ一定の範囲内であればぁ魔法を使うことも許可されているのです〜。よって、防護処置はぁ絶対的に必要というわけですねぇ」 人差し指を頬の横に立て、のんびりとした口調で言う燐の台詞を最初から最後まで聞いている男女は、時折、燐の間の延びにタイミングをずらされながらも、しっかりと聞いている。 「はい、それじゃぁ、次は訓練棟に行きましょう〜」 そう言い、燐が、くるりと体を前に向けた。 ズドーーーーーーン!!! ガガガガガガガガガガガ!! ドバーーーーーーーーーン!!! 「え〜〜、ここがぁ訓練棟です〜。日々ぃ学園の生徒がぁ技術向上のためにぃ自主トレーニングに励んでいます〜」 ボカーーーーーーーーーン!! ズドドドドドドドドドド!! 燐の言葉に被るように、激烈な音が乱れ飛んでいる。 しかし、燐は気にした風でもなくしゃべり続けている。それに対し、男女は、耳を押さえこそしてないが、険しい顔をして、必死に燐の声を拾おうとしている。 しかし、その努力を嘲笑うかのように、音はひたすらに耳へと飛び込んでくる。 「……しょうがない。『 』」 和宏が、ぼそりと呟いて魔法を展開すると、ふいに周囲の音が消えた。 「え……?」 いきなりの事に、一瞬、訝しげな表情を浮かべる男女。 「あ、今ぁ、和く……じゃなかったぁ、和宏くんがぁ、結界を張ってくれました〜。これで聞き易くなりましたねぇ〜」 と言って嬉しそうにすると、そのままさらに説明を続けようとする。 「おい、燐。そのまま続けるな。最初から説明してやれ」 その燐を、和宏が頭痛をこらえているような声でなだめた。 「あ〜そうだねぇ〜」 てへっ、という感じで、燐は困ったような笑顔を浮かべた。 それだけで、なぜか周囲の雰囲気が和んだ。無音のため、いまいち意識しにくいが、結界の外ではほぼ絶え間なく轟音が鳴り響いている。それを考えると、あまりに不釣り合いにほんわかとした雰囲気だ。男女の間でも、妙な緊張感が抜けた。 「この訓練棟はぁ全二十室でぇそれぞれがぁ校舎以上の防護処置を施されています〜。そのためぇこの中ではぁSランクレベル以外はぁ全て使用可能ということになっています〜。授業で使われることはほとんどありませんがぁ〜生徒が自主的に使用することが多いのでぇ放課後にはぁ半分以上はぁ大抵埋まっています〜。ちなみぃ〜防音処置も施されていますがぁレベルの高い生徒が訓練をしているとぉ今のように意味は無くなってしまうことが多いです〜。あ、でも〜訓練棟の建物に施されている防音処置はぁ個々の部屋よりも強いのでぇ訓練棟の外にまで音が響くことはないですよー」 「すごい施設だな……」 「やっぱ、最高の環境だよな、この学園」 そんな燐の言葉を聞いた男女の内、男二人──恐らく友人同士だろう──が、感心したように、そんなことを言った。 それに伴い、周囲からも同じ様な言葉や雰囲気が立ちのぼり始めた。 と、その様子をひとしきり眺めた後、和宏が、男女に向けて、突如口を開いた。 「この学園では、向上思考を持たない者は、確実に落ちていく。入学時にどんなエリートであろうともだ」 あまり大きな声でないはずなのに、その声は男女の間に遠慮なく飛び込んでいく。その内に含まれているのは、咎めるような口調だ。同時に、鋭い視線と雰囲気を男女へ向ける和宏。 そんな和宏の声と雰囲気に、水を打ったようにしーんとなる男女達。 視線を一人一人に巡らせた後、和宏は言葉を続けた。 「例えばの話、推薦上位で入ってきて授業を受けているだけの人間と、一般最下位で、授業を受け、みっちりとトレーニングを積んだ人間──どちらが残るかというと、まず間違いなく、後者だ。ブランドや、特定人物への憧れ──そんな生半可な気持ちだけで生き残れるほど、この学園は甘くない。中途半端に来るくらいなら、別の場所へ行った方が、万倍はマシだ。学園にとっても、お前達にとってもな」 「じゃ、じゃぁ、先輩は、俗な理由では、学園に入ってきてはいけないとおっしゃられるんですか?」 いかにも気の強そうな女子が、むかっとしたように反論してきた。 その視線は、自分の主張を余すことなく伝えようとしているかのように、和宏をまっすぐに見据えている。 「……確固たるものがあれば、それでもかまわない。その理由が、確固たるものだったらな。そういうものは、学園に入ってきてから、間違いなく昇華されるだろう。ただ、それが漠然とした甘いものであれば、間違いなく潰れる。……いや、潰れればまだ運がいいといえるだろう。命を落とすことだってあり得る。俺達は、そうやって学園での日々を過ごしているんだ」 淡々と語る和宏の口調には、嫌と言うほどの体験と、そしてそれから導かれてきた結論とが、重い説得力となってにじんでいた。 そしてその言葉は、男女の心の内に、じわりと染み込んでゆく。 我知らず、男女達は黙り込んでいた。その顔には、先ほどよりも重い緊張と、そして、漠然としながらも、選択肢の一つとして存在する死への恐怖があった。 「和くん〜そんなに脅しちゃ駄目だよぉ〜」 重苦しくなった雰囲気の中、燐が苦笑混じりに和宏をなだめた。 「大丈夫だよ〜。確かに、命の危険があることは確かだけどぉ死地に行かされるのとは違うよ〜。そういう部分はぁ学園がきちんと管理してくれてるんだからぁ」 花のような笑顔を振りまき、燐がそう説明した。 途端に、雰囲気が明るくなる。だが、それでも若干の重さを残しているのは、和宏と燐の言葉が、ただの学校ではない、学園のことを、端的に表しているのだと知っているからだろう。 「さぁてぇそれじゃぁ、気を取り直してぇ今度は部活棟に行ってみよう〜」 おーとばかりに片手を突き上げる燐。 しかし、悲しいことに、誰もそれに追随する者はいなかった。 「あははぁ……」 ちょっと引きつり気味の笑顔を浮かべ、悲しげに手を下ろし、足を進める燐。 「うぅ〜……ノリが悪いよぉ…………」 ぽつりと、燐が愚痴をこぼした。 ところ変わって部室棟。部活に割り当てられた部屋が並ぶ棟だ。 そこに、和宏・燐・男女達の一行があった。 「ここがぁ生徒達の憩いの場ぁ部室棟です〜。現在、この学園には六十を数える部活があり〜指定部となっている十部以外はぁ全ての部活がここに部屋を割り当てられています〜」 「あの、その指定部というのはなんですか?」 燐の説明に、男子の一人が挙手をして質問を投げかけてきた。 「えーっとぉ…………」 それを聞き、燐の笑顔に亀裂が走る。 そして、視線だけで和宏へ助けを求めた。 「指定部とは、学園または世間に多大な益をもたらした部のことで、学園から他の部とは比べものにならないほどの恵待遇を与えられている部のことだ。その具体的な内容や待遇は、配られたパンフを見た方がいいだろう。ちなみに言うと、指定部というのは、普通の部活よりも責任や功績が求められるので、入部には注意が必要だ」 その視線を受け、和宏が淀みなく質問に答えた。 「あ、すげぇ……」 男子の一人が、パンフを覗きつつ驚きの声を漏らした。 だが、パンフに書かれている内容を考えれば、それも無理はない。指定部は、普通の部活動では考えられないほどの恵待遇を与えられているのだ。 そして、それと同時に、載っている功績も称賛に値するものばかりで、生半可な事では為し得ないということが、ありありと実感できる。 「指定部っていうのは、必ず功績を出さなければならないんでしょうか?」 「そうだな……誰も為し得なかったことをしなければならないという意味では、答えは否だ。功績とは、何も表彰されることじゃない」 「難しい話はぁまた今度でいいよぉ〜。早くまわろ〜?」 和宏が神妙に話しているところで、突如燐がそう割り込んできた。どういうわけか、妙にうずうずしている感がある。 「……まぁ、そうだな」 恐らく何かを企んでいるのだろうが……別段、問題のあることを企んではいないだろう。和宏はそう考え、頷いた。 「それじゃぁ〜まずはぁ演出部でぇす」 そう言って、ある部室の前でくるりと男女に向き直る燐。 「演出部?」 燐の紹介に、男女は一斉にハテナ顔になる。 そして、つーっと全員の視線が、示し合わせたように上っていく。 その視線の先には、部活の名前を表すプレートがあり……そこには、確かに『演出部』という名前がある。 「……」 数人が、まるで錯覚だとでもいうように瞼を擦ってみるが、やはりそれでもその文字は一つも変わらない。 それを見て、燐はいたずらが成功した時のような満足げな表情を浮かべた。 「やったぁ成功〜」 そして、その表情のまま、歓喜の声で小さくそう言った。 「……いい加減、説明してやれ」 苦笑するべきかげんなりするべきか──そんな苦悩をない交ぜにしたような複雑な表情を顔に刻みつつ、和宏はそうフォローした。 このまま放っておけば、燐のことだ、そのまま次に行きかねない。 いつもは美佳が騒いでしまうために影に隠れがちだが、実を言えば、燐は結構いたずら好きだったりするのだ。──もっとも、美佳のそれとは違い、ほとんど実害はないのだが。 「あーそうだねぇ〜。えーっとぉ〜この演出部はぁその名の通りぃ様々な演出をする部活ですぅ。学園が行う舞台や講演その他諸々の行事や催し物にはぁこの演出部の存在がぁ必要不可欠です〜。またぁ外部からの注文に従い〜お手伝いすることや主導することもあるそうですぅ〜。その実力と評価は高く〜プロレベルのお仕事も来るそうですよ〜」 燐の説明に、へぇ、と感心の声が上がる。 「ではぁ〜話はつけてあるのでぇ入ってみて下さい〜」 そう言って、燐は満面の笑顔で、ウェイトレスよろしく促す。 (本命はこっちか) いつも燐の笑顔を見ているだけに、その変化に敏感な和宏は、直感的にそう思った。 燐が何かを企んでいるとは露知らず──というか、そもそも知りようがないのだが──ややとまどいの表情を浮かべながらも、一番扉の近くにいた男子が扉に手をかけた。 そうっと、扉を開ける男子。やや温かみを帯びた空気が漏れ出てきた。 男子は、そのまま扉を開け放った。 その視線の向こうにあるのは、分け隔てるかのように掛けられた暗幕だ。部屋の中が、コの字型になるように、暗幕によって隔てられているのだ。 目的通り、その暗幕に遮られ、その向こうの様子はうかがえない。 部屋の中に、しかも、その向こうとこちらを隔てるようにある暗幕に対して訝しげな表情を浮かべながらも、男子は、一歩足を踏み入れた。 そして、それに残りの男女が続く。 「それじゃ、楽しんでねぇ〜」 全員が部屋に入ったところで、燐がそう言って、ぴしゃりと扉を閉めた。 「へ?」 男女が、それに反応してとまどいの声を発した。 その直後。 ドパパパパパパパパパン! ヒュヒュヒュヒュヒュヒュ! ストトトトトトトトト! 軽めの衝撃音が、部屋の中を暴れ走った。 「う、うわぁぁぁ!」 「きゃぁッ!」 「なんだなんだ!?」 途端に、恐慌が吹き荒れた。 扉の窓にも暗幕が垂らされており、密閉状態になった室内には、ほとんど光は入ってこない。目の慣れていない男女には、ほぼ暗闇の中で音が鳴り響いているようにしか聞こえないのだ。 続いて、七色の光が縦横無尽に男女達の間を駆け抜けた。 「う、うえっ!?」 「こ、今度はなんだ!?」 音と光は、直接的な被害を及ぼさずに、途切れずひたすら男女達の間を駆け抜けている。 音に晒され、光に刺し抜かれ、男女は極限まで恐怖心を煽られている。 せわしなく全身は動き、口からは心に積み重なった恐怖を絶え間なく吐き出している。 しかし、常に積み重なっていく恐怖は、それだけでは吐き出しきれない。 と、まるでそれが分かっているかのように、突如として左側の暗幕が落ちた。 そして、淡い光が暗幕の向こうから現れ、全員の視線がそちらに一斉に向かい──そして、全てが凍り付いた。 人間では望むべくもない筋肉質の巨大な体躯を折り曲げ、その一つ目をぎょろりと動かす、巨躯の怪人──サイクロプスがその先にいた。 「うわぁぁっ!」 「どうわぁっ!」 「きゃぁッ!!」 凍り付いていた時間がわずかな時を経て戻り、同時に悲鳴が上がった。 その直後、今度は左側の暗幕がするりと落ちた。 そこには、サイクロプスと同じだが、種類の違う怪物がいた。 漆黒の翼を威嚇するように広げ、尊大に胸を張り、睥睨するようににらんでくる烏天狗だ。 暗幕が落ちる音に振り返った男女が、悲鳴の形に口を開き、硬直する。あまりの恐怖と驚きに、まるで喉が締め付けられているような空気の漏れる音がかすかに漏れるだけで、悲鳴すら上がらない。 そして、すぐさま、正面の暗幕が落ちた。 まるで、ゼンマイ仕掛けのように首を巡らす男女。 そこには、人など、数人はまとめて飲み込めそうな口に、ナイフと見まごうほどの鋭い牙を生え揃わせた四つ足の獣、キマイラがいた。 「ひうっ!」 「あぁあ……」 形にならない言葉が、男女の絶望と恐怖を物語っていた。 「もういやぁぁぁぁぁぁッ!!」 極度の恐怖が硬直を解いたのか、それとも位置が後ろの方で、まだ精神的被害が小さかったからか──扉の知覚にいた女子の一人が絶叫を上げ、振り向きざまに扉に手をかけた。 だが、扉は開けたときが嘘のように、重い手応えしか返してこない。 「なんでよぉッ!!」 嗚咽混じりに手を引くが、扉は微動だにしない。まるで、外から強い力で押さえられているようだ。 「おうおう、嬢ちゃん、なかなかええ反応してくれるやん」 と、いつの間に現れたのか、扉のすぐ下から、妙なイントネーションの言葉が投げかけられた。 白いネズミが、どうやら短くて届かないらしい腕を組むまねをしたまま、女子を見上げているのだ。 直後、つられたかのように爆発しかけた恐怖が、ぴしりと軋みを上げて固まった。 「ったく、失礼な奴らやなぁ。なぁんで固まるんやねん。リアクション起こしてくれへんと、つまらんやんけ」 その様子を見たネズミが、妙に闊達とした口調でそうこぼした。ご丁寧に、ため息までついてくれている。 「ね、ネズミがしゃべってる……?」 熱に浮かれているような口調で、見上げられている女子が呟いた。すると、ネズミがはぁ〜〜と、肺の中の空気を全て吐き出すような勢いでため息をついた。 「あのなぁ〜ネズミがしゃべったからなんやっていうんや? ここじゃ、そんなこと日常茶飯事やで? そんなんで驚いてたら、やっていかれへんっちゅうに」 心底から呆れたと言わんばかりの口調。心なしか、馬鹿にしているような雰囲気もみられる。 「ところで……下着はもう少し派手さを押さえた方がええんちゃうか?」 つーっとネズミが視線を上げて、そう言った。 「え……やぁっ!」 途端、ネズミが何を言っているのか理解したらしく、見上げられていた女子が、スカートを押さえながら慌てて後ずさった。 「態度がでけぇ上にエロネズミかよ……」 ぽつり、と誰かが呟いた。 スパカーン! 「いてっ!」 次の瞬間、マグロ缶の空き缶がその人物の額にジャストミートした。 「聞こえてるで! なんちゅー言い草や。礼儀もしらんのかい、今年の連中は……ったく」 物を投げた姿勢のまま、ネズミは脱力したように言った。 自分の体長の倍はありそうな缶を投げた……のだろうが、この小さな体のどこにそんな力があるのか不思議だ。 「まぁ、ええわ。とにかく、演出部へようこそ。ウチの実力見せようと思っての演出やったんやけど……どうやった?」 そう言って、口の端をつり上げるネズミ。人間に負けず劣らず、表情豊かだ。 「ああ、ちなみに、そいつらは偽物やから安心してええで」 タネを開かしても硬直を解かない大多数の男女達に、ネズミはそう言って笑顔を向けた。 「に、偽物……? これが……?」 男子の一人が、唖然と呟いた。 確かに偽物といわれればそうだと気付くが、言われなければ、全く気付かないだろう。なにせ、外見は寸分違わぬほど精巧に作られているのだ。 唯一本物と違うのは、それらに動きがないことくらいだろう。 「おう、びっくりやろ? 演出部、オブジェクト班得意のモンスターオブジェクトや。ちなみに、タネをあかすと……」 ネズミが、片手を振り上げた。 と、今までそこにあったモンスター達がふっと姿を消す。そして、その後にあったのは、3つの奇妙な白い固まりだった。 「この、大まかな形に整えた『型』に、幻影を被せるっちゅーもんや。幻影だけやと、どうしても質感が足りなくなるってまう。この手法やと、動きこそとれへんけど、その欠点が無くなるんや」 ネズミは、得意げにそう説明する。 指を振ったりする仕草が加わっているので、まるで教鞭を振るう教師のような感じだ。 「あれ? でも、幻影を被せたりできない場合は……?」 「鋭い質問やな、そこの嬢ちゃん!」 疑問が口をついて出たのだろう女子の声に、ネズミが鋭く反応し、びしりと指さした。 いきなり指さされ、びくりと硬直する疑問を述べた女子。しかし、ネズミはそれにかまわず、講釈を始めた。 「オブジェクト班は、確かに幻影と型を操ることで、本物と見まごうほどのオブジェクトを造り出すことが出来る。しっかぁし! オブジェクト班のすごいところはそれだけやないんや。オブジェクト班は、魔法を駆使することによって、通常のオブジェクトも精巧に作ることが出来るんや。部員がそこにいられない状況下でオブジェクトが必要なこともあるさかい、こういう技術も当然持ってるで。ちなみに、学園内にあるオブジェクトは、ほとんどがこの演出部オブジェクト班の作なんやで」 ネズミは、そう言って胸を反り返らせた。 そう、学園の敷地内には、様々なオブジェクトが、周囲の光景を壊すことなく、自然かつ精巧に作られ、飾られている。そのほとんどは、演出部の卒業生が、卒業記念に作った物なのだ。 「あのーもうそろそろぉ時間なんですけどぉ〜」 トントントン、という遠慮がちなノックと共に、そんな間延びした声が聞こえてきた。 「ん? ああ、分かったで! ……ってなわけで、演出部の紹介はこんなもんやな。ああ、忘れとった。演出部には、オブジェクト班以外にも、音響班とか光繰班とか構成班があってやな、それらが協力して、一つの部を作ってるんや。一応、どれも経験できるさかい、おもろいと思った所が、定位置や。入学のあかつきには、よろしゅうな。それじゃ、ワイの役目はここまでや」 そう早口でまくし立てると、突如として、ネズミが消えた。後に残ったのは、ネズミの大きさの白い固まり。 しかし、横に並ぶ固まりとはやや違い……こちらは、腕などがきちんとした形で付いている。 「とまぁ、実は、こんな演出も研究中だったりします」 目を丸くしている男女達に、頭上からそんな男性の声が投げかけられた。 思わず、頭上を見上げる男女。しかし、そこには無機質な天井があるだけだ。 「では、お帰りはこちらでーす」 そういう女性の声が終わると同時に、がらがらがら、と音を立てて男女達の背後にある、今までびくともしなかった扉が開いた。 驚きに口をぱくぱくとする男女達を、 「お帰りなさい〜。演出部の催し物はどうでしたかぁ〜?」 という燐の脳天気な声が出迎えた。 「えー部活紹介はぁ以上です〜」 燐のそんな心底脳天気な声と共に、男女の間から安堵のため息が漏れた。中には、へなへなと崩れ落ちている者までいる。 「燐……お前、いくら何でもやりすぎだぞ」 そんな男女達の様子を見て、和宏が棘のある声音で言った。 燐は、演出部を始め、指定部や有名部活──その中でも、特に、様々な意味で特異な部活のみを案内したのだ。 先々で行われてきたその過剰なまでのアピールを知る由など、燐共々外で待たされていた和宏には無いが、それでも、途切れることの無かった悲鳴や叫喚から、和宏から見ても常識外のことが起こっていたということくらいは想像がつく。 確かに、案内する場所は任された者──和宏はほとんど関わっていないので、実質は燐一人──に任されているが……あまりと言えばあまりの選択だ。 「え〜? だってぇ学長先生がぁ『我が校の魅力と特色をふんだんに取り入れた、それにふさわしい選択をして下さい』って言ってたよぉ〜?」 「……いや……確かに間違っちゃいないがな…………」 思わず、こめかみの辺りを押さえてしまう和宏。 確かに、燐の言う通り、学長の言葉に外れてはいない。いや、むしろ、言葉だけを取れば、燐の選択は完璧に正しいと言える。 しかし、それで見学者に恐怖心や警戒心を植え付けてしまっては意味がないのだ。 「はい〜それじゃぁ今日はこれで終わりです〜。校門までご案内しますのでぇそこで解散となりまぁす」 そんな和宏の懸念を余所に、燐は最後の仕事とばかりに張り切っていた。 |