「林、客だぜ」

放課後。帰り支度をしていた林 和広は、クラスメートからそう声をかけられた。

「ってか、お前らってダチじゃなかったのか?」

「……は?」

クラスメートの怪訝そうな声に、和広はそれ以上に跳ね上がった声で疑問を表した。

クラスメートが指し示す指の先を辿ってみれば、その先には、扉に隠れるようにして十翔 薫がいた。

考え込むように沈黙する和広。

「……誰かが幻覚使ってるとか?」

「……誰が何のためにんなことすんだよ」

呆れながら突っ込むクラスメート。

「ってか、お前、黒鞘さんの影響随分と受けてねぇか?」

「……さてと、なんの用だかな」

クラスメートの質問を黙殺し、和広は鞄を手に席を立った。燐はすでに部活に行っているため、今日の帰りは一人だ。

「不審者丸出しで何やってんだ?」

ちょいちょいと手招きをしていた薫の側に来た和広は、開口一番にそう言い放った。

確かに、その姿は不審者丸出しだ。通る生徒通る生徒が薫を不審げな視線で見ている。和広が冷たく非難するのも当然と言えよう。

「え、あ、いや……えーっと、一緒に帰ろう?」

「……不審者と帰るのは遠慮したいんだがな」

「まぁまぁまぁ、そう言わずに……」

「お、おい……」

和広の抗議を無視し、薫はずるずると引っ張っていく。普段の薫からは考えられない強引さだ。

引きずられながら、和広は「ふむ」と考えを巡らせる。

「やっぱ、幻覚か……?」

「は?」

「いや、なんでもない」

和広は、引きずられながら首を横に振った。

「ところで、いつまで引っ張ってる気だ? もの凄く歩きにくいんだが」

「え? ああ、ごめんごめん」

和広の指摘で初めて気付いたのか、薫が慌てて手を離した。

ここでつんのめれば面白いのだろうが、和広は普通に立ち、薫と並んで歩き始めた。

「で、わざわざ呼び出した理由はなんなんだ?」

「ん? ああ、実はさ……もうすぐホワイトデーでしょ?」

「………………」

ホワイトデーと薫が言った瞬間、和広がぴしりと石のように固まってしまった。

「和広くん?」

「……そーいや、もうそんな時期なのか」

窓の外のむこーの方を見ながら、和広はげんなりしたように言った。

「うん、そうだよ。で、何返したらいいかな、ってその相談なんだよ。僕的には、その、物だけで返すのはどうかなぁって思って。なんか企画できないかなぁって考えてるんだけど。どうせなら、一緒にやらない?」

「あー…………」

妙に舞い上がっている感のある薫の言葉を、和広は引きつった笑みと共に聞いていた。

「無難に物で終わらせた方がいいと俺は思うぞ……」

そして、どこか乾いた声でそう忠告した。

「え? なんで?」

きょとんと目をぱちくりする薫。

「俺が、夏休みを棒に振ったのは知ってるよな?」

「うん」

美佳づてだが、薫もその話は知っていた。幸いにして単位を取りこぼさなかったので夏休みを堪能させてはもらったが、ちょっとだけ二人と遊べないことを寂しく思ったものだった。

「で、その理由も当然知ってると」

「そりゃもちろん」

「じゃぁ、ある程度予想できないか?」

「ん〜〜……」

眉根を寄せて考え込む薫。

「う〜〜〜ん…………」

更に深刻に考え込む薫。

「悩むほどの事じゃないだろ。もうすぐ、成績認定なんだよ」

「……あぁ!」

和広の言葉でようやく合点がいったらしい。薫は、ぽんと手を打ち付けた。

「そっかそっか。そういえばそうだったね」

薫は、しきりに頷いている。だが、和広はと言えばそんな呑気にしていられる問題ではなかった。

「まぁ、燐のことだ、どうせ今回もなんだろうな。去年もそうだったって鴻が前に言ってたし」

「大変だよねぇ……毎回でしょ? これからも」

さすがに薫も同情の眼差しを向ける。

だが、そんな薫を恨みがましく見るでもなく、むしろ薫と同じ眼差しで、和広は薫を見返していた。

「……えーっと、何?」

嫌な予感に苛まれつつ、薫は尋ねた。これみよがしに和広は大きく溜息をついた。

「お前だって今回は少なくとも大変だぞ。鴻の奴、最近、居眠りばっかでロクに授業受けてないって話じゃないか」

「げっ……」

ここに来て、ようやく自分も楽観できない状況にあることに気付いたようだ。顔を思いっきり引きつらせる。

「とにかく、ホワイトデーなんぞにうつつを抜かしてる状況じゃないんだよ、お互いに。……まぁ、返さないってわけにはいかないけどな」

そう言って、溜息をつきながら頭を振る和広。もう少しいけば、頭痛が併発してきそうだ。

「はぁ……そっかぁ。ま、でも、一緒にいるためだし、しょうがないんじゃない?」

「……俺も、最初はそう思ったよ」

薫の言葉に、和広は自虐的に口の端を歪めた。

それを見て、面白いように薫の顔から血の気が引いていく。

「そ、そんなにきついの……?」

「……体験した方が早いな、その答えは」

死刑宣告にも近いその言葉は、薫の耳の奥で何重にも反響していた。

 

 

「だからぁ、そうじゃないって美佳」

「えぇ〜? だって、この魔法陣ってこの法則から導かれるんじゃないの?」

「和くん……これってぇこうでいいのかなぁ?」

「違う。この魔法は、そもそもの発祥が……」

試験、そしてその先の成績認定が差し迫った三月上旬。いつもの四人は、恒例の如く和広の部屋で勉強会を開いていた。

和広としては「なんで俺の部屋なんだ……」と文句の一つや二つや三つや四つはあるのだが、燐にねだられ美佳に脅されれば、時間の関係からも反論の余地はない。……いや、和広本人は、成績に問題は全くもって完全に無いのだが。

「そーいやーさぁ、今何時?」

ふと、美佳が疑問を口にした。

「……一時、だな」

「へー一時かぁ……って一時!?」

その台詞に仰天した美佳は、慌てて壁に掛けられている時計を見た。……確かに、時計の針は一時を指している。

「……えーっと、何? わたし達って、もうかれこれ七時間近く勉強してるの?」

「より正確に言うなら、部屋に来たのが六時で、勉強を始めたのは八時。そして、途中お前が騒がしくて中断したこと五回で、勉強時間は大体二時間だ」

美佳の台詞に、和広がテキストに目を落としたまま冷静にツッコミを入れた。

「……あんた、なんでそんな正確に覚えてんのよ」

「記憶に残ってただけだ。深い意味はない」

「まぁまぁ、とにかく、今日はいい加減お開きにしよう?」

「そうね。……ってか、このペースはいい加減まずそうねぇ」

「お前が騒がしくしなければ、それだけで解決するんだがな」

「あんた、一回凍らせて欲しいの?」

ぶるぶると拳を震わせている美佳に対し、和広は変わらずしれっとしている。……と思った次の瞬間、和広の顔が引きつった。

「だぁっ! フレイ、冗談に決まってるだろ!」

和広が、やや後ずさりながら怒鳴る。

というのも、美佳の台詞を聞いたフレイが、「しゃぁ〜」と鎌首をもたげ、舌を出して威嚇してきたのだ。いくらまだ子供だとは言え、仮にも幻獣フレイザーデスネークだ。その力、侮れるものではない。

と、和広の言葉が通じたのか、フレイは美佳の方へと顔を向け、可愛く小首を傾げた。

「残念だけど、やめておいてね、フレイ」

苦笑しながら、美佳は言った。ここでフレイが力を解放すれば、その後に自分の身が危なくなるのは確実だ。さすがの美佳も、冗談に命を賭けたいとは思わない。

ちなみに、この――というか、同様の――やりとりは、三日間計一五回ほどやっている。……両者とも、いい加減学習してもらいたいものだ。

「じゃ、帰ろうか」

テキパキ黙々と片づけをしていた薫が、そう言って立ち上がった。もはや慣れたもので、美佳の勉強道具もしっかりと片づけている。なんとも健気な感じだ。

「ああ、鴻。でっかい荷物、忘れないでくれよ」

「……あんた、毎度のこととは言え、自分の彼女を“でっかい荷物”なんて言うのはどうかと思うんだけど?」

呆れ顔で美佳は言う。和広の言うでっかい荷物とは、テーブルに突っ伏してあどけない寝顔を見せている燐の事だ。この三日間、帰り際は必ずと言って良いほど夢の中にいる。

「大丈夫だ。お前のように、彼氏をお」

「だわぁぁぁぁッ! だまんなさい! 本気で凍らせるわよッッ!?」

怒り……というより焦り全開で、美佳は和広の台詞を遮った。

「まぁ、そういうことなんで、よろしくな」

顔を赤くしている美佳に、和広はしれっと言ってのけた。

(こ、こいつ……マジで凍らせようかしら?)

かなり本気で殺意を覚え始めた美佳だった。

 

 

「薫」

自動販売機からジュースを取り出そうとしたところで声をかけられ、薫は中腰のまま顔を向けた。

「あ、和広君……」

「……ずいぶんと疲れてるな」

そのあまりの覇気のなさに、和広は同情の眼差しを向ける。

「あーうん……さすがに、実技テスト五個連続はきついよ……おまけに、これから実地だし…………」

「鴻の方か?」

「うん。まぁ、僕も二単位ほど足りないんだけどね……。でも、本当なら二単位実地以下で済むはずが、美佳に押し切られて四単位実地受ける羽目になっちゃって……」

「……かける言葉もないな」

さすがに顔を引きつらせる和広。

二単位実地と四単位実地は、例えるなら荷物の梱包と引っ越し(肉体専門)に近い労力の差がある。しかも、この時期にある四単位実地は、めんどくさい・大変・ややこしいの三拍子揃ったいわゆる究極の雑用的なものばかりが勢揃いしている。おまけに、よほど単位に困っている生徒以外は請け負わないという曰く付きだ。

そんなのに回されるのだから、とばっちりもいいところの薫にしてみればげんなりする以外にリアクションなどないだろう。

「そっちは余裕そうだね……」

「ああ、まぁ、四単位実地が受けられるからな、俺達は」

上位序列に食い込んでいる和広と燐は、ペアならば危険度の高い通常の四単位実地を受けることが出来る。

単純に言えば、受ける必要のある実地が半分以下なわけだから、確かに余裕だろう。

「ただまぁ……俺も実地は受ける羽目になってるんだがな」

「黒鞘さん?」

「ああ。前回同様駄々こねられてな……」

困ったもんだ、と言った感じで溜息をついてみせる和広だが、その顔に若干の緩みがあるのを、薫は見逃さなかった。

口ではなんのかんの言いながら、やはり頼られるのが嬉しいのだろう。……それに従ってしまうのは甘いの一言だが。

「なんて言うか……知らず知らずの内に尻に敷かれてるっぽいよね、和広君って」

意地悪っぽい口調の薫。それに対し、和広は同じく意地悪っぽい口調で返す。

「相互容認のお前に言われたくはないんだがな」

「……それを言われると痛いね」

……一応、自覚はあるらしい。

「だぁれが尻にぃ〜……」

と、突如、和広の背後からおどろおどろしい声が聞こえてきた。

同時に、たたたたというピッチの早く軽い足音も聞こえてくる。

「敷いてるってぇぇぇ〜ッ!!」

だん、という、その軽い足音には不釣り合いな踏み込みの音が不気味に響く。

「事実だろ? 鴻」

慌てることもなく和広はそう言って、ひょいっと体を横にずらす。

「はへっ!?」

「はいっ!?」

美佳と薫の素っ頓狂な声が上がる。とほぼ同時に、美佳の突き出した足が、薫の喉元にめり込んだ。

「……!!」

声も出ないのか、悲鳴の形に口を開くも無言のまま仰け反る薫。

そして、凄まじい勢いだったせいか、薫の足が高速で浮き上がり……美佳を巻き込む。

「へっ!?」

驚きのあまり体勢が崩れてそれに飲み込まれる美佳。

きりもみのような、それでいてどこか変な回転を数回し、たっぷり三秒ほど空中遊泳を楽しんだ後、共に床へ叩きつけられる二人。

「大惨事だな」

事の元凶――というかなんというか――である和広は、それを見て一言呟いた。

「というかだ。物理的にまで尻に敷くことはないだろう、鴻。いくらなんでも薫が哀れだぞ?」

見れば、薫が美佳の下敷きになり、美佳はと言えば薫の上に座るような体勢になっているではないか。まさしく尻に敷いている状態だ。

「う、うっさいわよ!」

がるる、とでも形容したくなる感じで和広に食ってかかる美佳。

と、そんな美佳の下から、薫が弱々しく掠れた声で問い掛ける。

「美佳……無事?」

「え、あ、うん、無事」

「そう、良かった……」

痛めた喉を酷使しても恋人の安否を気にするあたり、普段は甲斐性なしとか奥手とか散々な事を言われている薫も男ということだろうか。

「じゃぁ、早くどいて欲しいんだけど……」

…………そうでもなかったらしい。

「あ、ごめんごめん」

慌てて立ち上がる美佳。解放された薫は、よろよろと立ち上がる。

「喉が痛い……」

掠れた声で呟く薫。あれだけの蹴りを食らえば、そりゃ喉も痛くなるだろう。というか、声を出せるだけでも驚きだ。普通、喉など鍛えないだろうに。

「……ふむ。薫、見舞い品は何がいい?」

「うえ……?」

和広の脈絡のない質問に、薫は怪訝な顔をする。対して美佳はというと、質問の意図は分かってないらしいがニュアンスは感じ取ったらしく、あからさまに不審げな視線でガンを飛ばしていた。

「いや、そろそろ入院するだろうから、先に聞いておこうかと」

「そんなことだろうと思ったわぁ!!!」

美佳が、叫ぶと同時に何かを和広めがけて投げつけた。

 

ビュゥン!

 

「うおっ!?」

今さっきまで和広の顔があった位置を、缶が唸りを上げながら超速で飛び抜けていく。そして、

 

ドガン!

 

と背後の壁にめり込んだ。衝突場所からは、しゅぅ〜という音と焦げ付いた嫌な匂いが漂っていた。

「……鴻、お前、体育科に転向した方がよくないか?」

その威力に感心するように唸りながら、かなり本気で和広は言った。

「ふーん…………。よっっっぽど命がいらないとみえるわね」

地獄の閻魔様も裸足でひーこら逃げそうな、静かで激しく怒れる美佳がそこにいた。

「…………じゃ!」

さすがに本気で命の危険を感じた和広は、片手をしゅたっ、と上げて走り出した。

「待ちなさーーーーーーーーーーーーーーいッ!!!」

軽やかに走り去っていく和広を、地響きのビブラート付きで追いかけていく美佳。

「………………はぁ」

その場に残された薫は、ただ重々しく溜息をつくだけだった。

 

 

「…………」

「和広くん、そんな恨みがましい視線を向けたって、量は減らないよ?」

天敵にでも向けるような鋭い視線を向けたまま動かない和広に、薫は控えめに抗議した。

しかし、薫自身も同じ様な心情なので、その抗議の色は蚊が鳴くにも等しい程度だ。

じろり、とでも表現したくなるような視線を薫に据える和広。

「お前は理不尽に思わんのか?」

「……お願いだから、僕に当たらないでよ」

わざわざ分かりきった事を聞いてくる和広に、薫は大きく溜息をついて訴えた。

「どうして実地にしないんだ……実地なら、こんなにめんどくさいことしないで済むのに……」

「単位取れないって分かってる生徒が、さっさと取っちゃうんだって」

「で、こんなもんが残った、と」

「うん」

申し合わせたように視線を上げ、これまた同時に溜息をつく二人。

二人の眼前には、十メートルはあろうかという天井までの本棚と、その中にびっしりと納められた本達がある。ちなみに、四方百五十メートルの部屋の中に、幅三メートル×二十七本の通路がある。そして、読書スペースやカウンターなどを除くその他の部分には全て本棚があり、これまた全てびっしりと本が入っていたりする。

学園が所有する莫大な蔵書の一部を修めた部屋、第五資料室。それがこの部屋の名称だ。

とは言え、一部という通り、学園はこの他にも資料室を持っている。この部屋は最小の部類で、この部屋に換算するならば、学園は約三十部屋ほど所有していることになる。

その蔵書量は数千万冊レベルと言われ、学園で見つからない情報は無い、とまで言われるのは偏に資料室の存在があるからだと言われている。

もっとも、それはあくまで理論上見つかる、というだけの話だが。

「……なんでうちの小娘達はさっさと取らなかったんだ?」

「……理由、聞いてないの?」

「……忘れてた、と言われたな」

「僕はそれどころじゃないって言われたよ」

またもや、はぁ〜と重々しい溜息をつく二人。二人の側だけ、妙に影が濃いような気がするのは、きっと気のせいではあるまい。

「あー二人とも何さぼってんのよ!」

と、そんな二人に、事の元凶はあっけらかんと怒声を浴びせてきた。

「……鴻」

「お願いだからテキパキやってよ。マジ終わんないんだから!」

本を両手一杯に抱えた美佳は、そうまくし立てると本棚の影に消えていった。

「っとぉととぉ……」

その後を、身長を遥かに超える高さに詰んだ本を持った燐が追いかけていく。

本はぐらぐら燐はふらふらで、いつ大惨事が起きてもおかしくない感じだ。……しかし、それでも燐の声を聞くとさほど危なくなさそうに聞こえるのは、何度見ても不思議としか言いようがない。

ちなみに、かれこれ十回近くはこんな光景を見ていたりする。……それでも、まだ千分の一も終わっていないのだが。

「…………終わるのか? そもそも」

「……さぁ? でも、終わらせないとあの二人、ダブっちゃうし…………」

案の定というかやっぱりというか……燐と美佳は、しっかり単位を落としていたりする。しかも、その単位がないと進学できないという見事な落としっぷりだ。

夏の段階では――最終的に――問題なかったはずなのに、どうやったらそこまで落とせるのかと思ったりもした二人だが、テストに出てなければそりゃ落とすのも当然だと、もはや怒りを通り越して呆れて思ったものだ。

よって、進学のために当然補習を受けねばならない。……のだが、燐と美佳が落としたのは揃いも揃って実地系の単位だった。

実地の補習は当然実地。残っていた実地補習から燐と美佳が選んできたのは、第五資料室の資料整理だった。

資料室の整理と言えば、最も敬遠したい実地ナンバーワンを裏学園アンケート(アンケート部【指定部】実施)により十年以上単独でとり続けていると有名なのだ。

なんでそんなものをわざわざ取ってきたかと聞いたところ、「取得単位上、間に合うのがそれしかなかった」と二人口を揃えて言ったそうだ。

そして和広と薫の二人は当然の事ながらその手伝いに引っ張られ、こうして本棚を恨みがましい視線で睨んでいる、というわけである。

「……春休み返上だよね、これ」

「そうだろうな……」

「……和広くんの言った言葉、今になってようやく分かったよ」

「人生の理不尽をまた一つ知ったって事だな……」

「うん……」

年に似合わぬ枯れた雰囲気を醸し出す二人。精神年齢が十や二十は軽く老けてそうだ。

「…………やっぱ、今回もこうなるのか……」

和広の呟きは、これからの未来すらも見通しているかのような響きを持っていた……。



戻る