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鴻 美佳が、ありったけの声を張り上げた。しかし、その大半は、周囲の轟音にかき消されてしまう。 「さぁな。目印がなきゃ、そんなの分かるわけないだろ」 しかし、かろうじて聞き取った林 和広が、同じように声を張り上げてそう答えた。 「こうまで真っ白だとねぇ……」 はぁ〜と大きく溜息をつき、美佳の隣を歩く十翔 薫は諦めたように言った。 鴻 美佳、林 和広、十翔 薫、黒鞘 燐の4人は、真っ白い視界の中を、あてもなく歩き続けていた。かれこれ、吹雪いてから7時間、その前から考えると十時間くらいは歩いている。 しかし、目印も見つけられない中での強行軍に、もう何処を歩いているのかどころか、どの方角を歩いているのかさえ不明な状態だ。 というか、それ以前に、そもそもとして今回のミッションそのものがあてもない山中の探索なので、目印など見つけようがない。その上、視界を閉ざすほどの猛吹雪に晒されれば、遭難しても当然だ。 「とりあえず〜どこかで休まないと〜いつか倒れそうだよねぇ〜」 こんな吹雪の中にあっても、燐だけはぽや〜んと変わらない。 「確かに、いい加減、どっかベース確保しないとやばいわよね」 美佳が、燐に賛同した。 学園の生徒だけあって、確かにまだ余裕が伺えるが、このまま果てしなく歩くなど到底不可能だ。燐達の判断は、確かに的確と言える。 「そういうがな……もう、かれこれ4時間はそんなもん、見つかってないぞ」 「うえッ!? 和広、そんな前から探してたの?」 和広の冷静な台詞に、美佳が驚愕の声を漏らした。2時間前と言えば、吹雪く直前だ。 「ああ。空気の流れが冷たかったからな。吹雪くかはともかく、雪は降ってくるだろうと思って、探してたんだが……さすがにここまで山奥になると、山小屋もみつからん」 ふぅ、と静かに溜息をつく和広。場の雰囲気が、一気に重くなった。 「ってことは、ベースはかなり難しそうってことね……。今から戻るのもさすがに無理だし……ふぅ、明日辺りにはみんな仲良く凍死体ってところかしら?」 美佳の得意の軽口も、さすがにこの時ばかりは勢いがない。実際問題、洒落で済む状況ではないのだ。 「無理ならぁ作っちゃおうよ〜」 「作るって……どうやって?」 燐ののほほ〜んとした提案に、薫が疑問を挟む。 「かまくら〜。雪たくさんあるからぁ簡単だよ〜」 燐が言った直後、辺りに沈黙が降りた。 「それで、みんな仲良くかまくらの中で凍死体?」 美佳が、肩をわななかせながら、静かに問う。 「大丈夫だよ〜。かまくらってあったかいもん〜」 「え? 入ったことあるの?」 「ううん。あったかいって聞いただけぇ〜」 すでに燐の頭の中ではかまくらに入っている自分が想像されているのか、その瞳は夢見心地だ。 「このドリーム娘が……。暖もとれない、食料だってロクにないこの状況でかまくらになんて入ってたら、あったかいどころじゃないでしょうが……」 「まぁ、燐のドリーム状態はともかく、もう少し歩き回ってみて避難できるような場所が見つからないようなら、かまくらでも作るしか本当に手段はないな」 至極まっとうな和広の意見。確かに、このままでは夜を待たずに仲良く凍死体のできあがりだ。少しでも、吹雪から逃げられる状況にしなければならない。 「まぁ、そーね。とりあえず、さっさと進みましょうか」 美佳のその言葉とともに、緩んでいた全員の足が、一斉に速度を増した。 パチパチと薪のはぜる音が、心地よい効果音になっている。 人は火を見ると落ち着くというが、今の四人にとっては、まさに命の救いと言えるので、その落ち着き具合は天にも昇らんばかりだ。 「あったかぁ〜〜い〜」 ふらふらと上体を揺らしながら、燐は溶けそうなまでに弛緩しきっている。そんな燐を見て、美佳が冷たい視線を投げかける。 「ちょっと燐、火に突っ込んで消したりしないでよね」 「美佳、この場合、本音がそっちでも、一応は体の方を心配しない?」 心情としては間違っていないが、あまりと言えばあまりの美佳の物言いに、思わず苦笑気味に返す薫。しかし、ほとんどフォローになっていない。 「うぅ〜……美佳ちゃん、酷いよぉ〜」 とは言え、燐にはその墓穴は分からなかったらしい。美佳に恨めしげな視線を向けている。 「な〜に〜よ〜その視線は〜?」 負けじと鋭い視線を向ける美佳。 何やら、二人の間で妙な視線がぶつかり合っている。 「しかし、都合良くまぁ、こんな所に山小屋があるとはな……」 火の番をしている和広が、薪を放り込みながら呟いた。 四人がいるのは、うち捨てられたと思しき山小屋だ。あれから一時間弱、そろそろかまくらかと思ったときに現れたのだ。 しかも、どうやら避難小屋というよりは家に近いらしく、造りもしっかりしている。何の加工をしなくとも、十分に安全を確保できる山小屋だ。 「でもさ……妙だよね、ここ。数日前まで、誰かが生活していた感じがあるんだけど……」 囲炉裏を挟んで反対側、和広の正面に座る薫が首を傾げる。 「ひょっとしたら、不定期に来るこの吹雪にやられたのかもな……」 ぱちぱちとはぜる火を見ながら、和宏が苦々しげに言う。 和宏達も見舞われたこの吹雪は、十日ほど前からこの山を中心に断続的に吹き荒んでいるものだ。 しかも、数日間吹き続けたかと思えば一時間足らずで止んだりと、時間やそれまでの天気など、一切関係なく、まるで何かの気分が関係しているかのように、突如として起こるのだ。 長年、山に親しんだ猟師であってもそれを予想することは叶わず、突如として見舞われた猛吹雪によって、多数がその命を散らしている。 「でもさ、それにしては妙なのよね」 いい加減、燐とのにらめっこに飽きたらしい美佳が、そう口を挟んできた。 「え? なんで?」 「あのねぇ、薫。それくらい察しなさいよ」 はぁ〜と盛大なため息をつく美佳。そして、言い含めるように話し出す。 「いい? ここらの猟師達は、私たちよりもずっと山での生活に慣れてるのよ? その猟師達が吹雪の中で死んでる。なのに、私たちは山小屋こそ見つけられたけど、五体満足でしょ? なぁんかしっくりこないのよ」 「そうだな。体力とかそういう問題以前だよな。俺もそれは気になってた」 「え〜? あれってぇ〜魔法じゃなかったの〜?」 と、燐が口を挟んできた。その内容に、思わずそちらに向き直る和宏と美佳。 「は?」 「何?」 「気付いてなかったのぉ〜?」 二人の反応に、燐はきょとんとしている。 「なるほど……魔法か……。それなら確かに……」 思いがけない燐の横やりに、考えが繋がった様子の和宏は、思考に没頭し始めた。 「だが、これは……可能性的には……いや……もしくは……」 火を見ながら口元に手を当て、和宏はぶつぶつと口内で呟いている。 「始まったわ、和宏の熟考が。燐、暴走しないようにしっかり抑えなさいよ」 その様子を見て、呆れたように美佳が言った。 そして翌日。 昼頃になって、それぞれが起き出してきた。 「あーまだ吹いてるわねぇ……」 かなりの疲労が溜まっていたせいか、夜半頃寝入ったにも関わらず、まだ美佳はかなり眠そうだ。 「だが、夕べよりは緩やかになってるようだな」 耳を澄ませて外の音を聞き、冷静な判断を下す和宏でさえ、まだ眠気が残っているようだ。 「うーん……」 「うにゅぅ……」 そして、燐と薫は体こそ起こしているものの、まだまだ夢の中だった。 「はぁ……。ったく、この低血圧コンビは……一応は緊急事態の警戒態勢だってのにこの体たらく。学園の生徒として恥ずかしいわ」 どこか芝居がかった様子で天井を仰いで嘆息する美佳。 「ところで和宏。もう、考えはまとまったの?」 と思ったら、すぐさま話題を切り替えてきた。 「……お前のその変わり身も人間としてどうかと思うがな。まぁ、おおかたの予想はついた」 大きく肩をくすめ、和宏はそう切り出す。 「この吹雪は、人為……もしくは、それに相当する自然災害以外のものだ。いや、もっと正確に言うなら、自然現象に乗せた魔法による自然災害ってところだな」 下火になった囲炉裏の火に薪をくべながら、和宏は自身の考えを述べる。 「…………」 和広の言葉を聞いて、美佳はじっと考え込むように沈黙する。 「要するに、ぶっ飛ばす相手がいるって事ね!」 「……考え込んだ挙げ句の結論がそれか? おい」 美佳の物言いに慣れているはずの和広も、思わず冷たい視線を投げかけてしまう。 「間違ってないでしょ?」 「まぁ、そうだが……わからんのならわからんで、聞けばいいだろうが」 「めんどくさい」 きっぱりと、美佳は言い放った。思わず絶句してしまう和広。 しかし、それではいかんとばかりに首を数度振り、口を開く。 「とりあえず、説明してやるから聞け」 「あの二人は?」 「ほっときゃいい。話したってどうせ半分も頭に残ってないんだ。で、単純に言えばさっきの通りなんだが……まぁ、なんらかの存在がこの吹雪の原因で、雪なり軽い吹雪なりを増幅して猛吹雪にしてるってことだな」 「ふーん。まぁ、そんなことは正直、どうでもいいわね」 「お前な……」 「むしろ、大事なのは誰が、もしくは何が何のためにそんなことをしてるか、でしょ?」 さすがにむかっときかけた和広だが、美佳の正論に言葉に詰まる。 ふー、っと自らを落ち着かせるように一つ大きく息を吐く。 「まぁ、確かにな」 そう言って苦笑する和広。しかし、すぐさま、その表情は真剣になり、声のトーンが落ちた。 「俺の見立てじゃ、この一件、幻獣の仕業だ。さすがに、種類や理由はわからんがな。お前なら、なんの幻獣かとか心当たりあるんじゃないか?」 「幻獣!? 嘘でしょ? そんなもんがなんでこっちにいんのよ……」 美佳が、思ってもない言葉に頬をひきつらせる。 「それがわからんからお前に聞いてるんだろ」 「あのねぇ〜いくら私が使役を主にしてるからって、幻獣のことなんか知るわけないでしょ」 呆れたように言い放つ美佳。 二人の言っている幻獣とは、高い知能と能力を誇る、使役獣の更に上の存在のことだ。 向こう――獣界と呼ばれる世界には、底辺の使役獣、幻獣、聖獣、上辺の神獣が暮らしていると言われている。その内、人間が呼び出し力を借りることが出来るのは使役獣だけだ。 その他は人間に匹敵するかそれ以上の知能を誇り、なおかつ人間以上の能力を持っているため、ほとんどの場合に力を貸してくれることはない。 伝説や神話、おとぎ話などで一部の幻獣や神獣が力を貸してくれた、という話が語り継がれていることもあるが、最大級を誇る学園が保持している記録でも、もっとも近いのは数百年前だ。すでに真偽を確かめることすら不可能と言える。 そんな幻獣以上の存在を今に伝えているのは、使役獣達だ。 今のところ学園にはいないが、中には使役獣と完璧に通じ合うことの出来る人間もいる。 そういった人間のおかげで存在を確固たるものとして認識できてはいるものの、未だに公式で人間界へ出てきたという記録はない。 「ってか、なんで幻獣がいるのよ? そもそも、それがおかしいじゃない」 「確かにそうなんだが……だが、そうとしか考えられん。この猛吹雪、魔法で起こそうと思うとどれだけ大変か、疎いお前でも分かるだろ? 詠唱や陣形はもちろんのこと、使役でだって無理だぞ」 「…………」 さすがの美佳も、そう言われてしまえば口をつぐむ以外にない。 一度起こすだけならばともかく、断続的にとなれば、よほど大掛かりな仕掛けが必要となってくる。 そうなれば、準備している間に漏れてくる魔力や装置そのものを学園側が探知できるだろう。 それがないとなれば、この吹雪がほぼ一瞬で起こっていることになる。山の天気は変わりやすいとは言え、あまりに唐突すぎる、と地元でも話されていた。 そこら辺を考えてみると、今のところ人間以上の力を持つ存在が幻獣か聖獣、神獣しか確認されていない以上、使役獣よりも上の存在と考えるのが自然だ。 「……百歩譲って幻獣だとして。一体何の目的で? 私に心当たりなんてないよわ?」 「一つもないか? なんでもいい」 「うーん…………」 念を押され、美佳は心当たりを探ろうと首を傾げて唸る。 「……正直、獣界学っておとぎ話を紐解くのと同じ様なもんなのよ。実証ができないからね。だから、信憑性の薄い話ではあるけど……あるにはあるわよ」 唸りがとぎれて横たわった沈黙を自ら破って、美佳はそう話し出した。 「あくまで一説だけど、人間界と獣界って、元々は一つだって考え方があるの。それが、なんらかの理由で仕切られたって考えているわけね。で、私達はその仕切りを一時的にこじ開けて使役獣を呼び出しているの。これが、一応、今の使役魔法学及び獣界学の主流説で、提唱者の名前を取ってフェイロード説って呼ばれてるわ」 「続けてくれ」 ちらりと、ついてきているか自分の方へ視線を走らせた美佳に、和広は軽く促す。 「で、フェイロード説を用いて、クインスって学者が、人為的にそんな事が可能なんだから、自然界でも起こっているだろう、って唱えているの。……とは言え、それを実証する記録は今のところないし、その説ももう大分昔ので廃れてるんだけどね」 「つまり、今回のはなんらかの幻獣が、使役魔法と同等の現象によってこちらに現れた結果、ということか?」 その言葉に、美佳はゆっくりと頷く。 「一つの可能性だけど」 「ふーむ……だとすると、さすがに手に負える話じゃなくなってきたな。一回、戻って報告した方が良いかもしれない」 「戻るって……調査はどうすふわぁぁ」 ぼーっと夢中を彷徨っていた薫がようやく起き出したらしい。しかし、語尾があくびで完全に隠れて意味不明になっている。 「……薫、あんた、一番最後しか聞いてないでしょ?」 「あーうん……。今、目が覚めたみたい……」 ごしごしと瞼をこすりながら、眠そうに答える薫。 「はぁ……ったく。こっちはいつ来るのかとそれなりに楽しみにしてたのに」 ぼそり、と美佳は爆弾発言を呟く。 普通に考えれば、雑魚寝の状態でくるわけがないのだが、それはそれ、やはり見かけや性格がどうあれ、身かも熱愛中の乙女だ。現実など、想像……いや、妄想の敵ではない。 「ん? なんか言った?」 「あ、ううん、なんでもないない」 薫が首を傾げて聞いてきたので、美佳は慌ててぱたぱたと手を振って誤魔化した。 「まぁ、それはともかく、どうするの? 和広。一応、うちのパーティーのリーダーはあんたなんだから、決めなさいよ」 「…………おい。今回は学園直々にお前がリーダーに任命されただろ。勝手に押しつけるな」 「やーよ。私、そんなの性に合わないもん。これが他のメンバーと組んでるんだったら諦めるけど、このメンバーだったら私はやりたくない。決定に責任は持つから、あんたが決めて」 一息にそう言い放ち、美佳はぷいっとそっぽを向いてしまう。 「…………はぁ。ったく……。とりあえず、俺は戻る方が良いと思う。正直、この状況だと俺達の手には負えない。もし、それでも学園が俺達に調査継続を言ってくるようなら、もっとしっかりとした装備を調えないとならんな。今のままじゃ、全滅を待つだけだ」 諦めの溜息一つ、和広は自分の考えを述べた。 「そうだね……身動きも取れないもんね」 事情の大半は分かっていないようだが、状況が芳しくないことだけは分かる薫は、戻るのに賛成を示した。 「でもさ、どうやって戻るの? この吹雪じゃぁ……」 「次に晴れたとき、大体の位置を調べて、地図を参照すれば大丈夫だろう。ここの位置が載ってればベストだが、まぁ、載っていなくてもなんとかなる」 「……地図? どこにそんなもんがあるの?」 和広の意見に、美佳が疑問を挟む。 「え……?」 思わず、間抜けな表情を作ってしまう和広。生憎寝ているが、燐が見たらそれはもう、大喜びしそうなほどに間抜けな表情だ。 「お前……持ってきてるんじゃないのか?」 恐る恐る、和広は尋ねる。 それを受け、今度は美佳が驚きの表情を顔に張り付かせた。 「は? あんたが持ってるんじゃ……?」 美佳の発言に、しーんと重苦しい沈黙が場にのしかかる。 「………………。薫、念のために聞こう」 盛大な沈黙の後、和広がどこか遠くを見るように口を開いた。 「……たぶん、期待には添えないと思うけど…………何?」 「お前、地図持ってきてるか?」 和広の問いにゆっくりと頭を振る薫。 今回はかなりシークレットレベルの高いミッションのため、詳しい地図はリーダーかサブリーダーが請求した場合に限り、一枚だけ発行されることになっている。 盗難や紛失、不用意な情報の流出を避けるための措置だが……どうやら、今回ばかりはそれが裏目に出てしまったらしい。……このパーティーの迂闊と言えばそれまでだが。 「どーすんのよちょっと!?」 「まずいってそれ!!」 美佳と薫が、揃って大慌てする。 確かに、現在位置も分からぬまま、吹雪、もしくはいつ吹雪くか分からない中を行進するのは危険すぎる。地図がないのは絶望的とも言えるので、それも無理はない。 「……いや、大丈夫だ」 しかし、和広だけは妙に落ち着き払っている。 「え?」 「地図を取りに行けばいい。リーダーの鴻もサブリーダーの俺も持ってないということは、まだ請求すればもらえるということだ」 焦点の合ってない目で中空を眺めながら、口調だけは流暢かつ自信たっぷりだ。 「うわぁ〜。知恵袋の和広君が一番混乱してるよ〜もう駄目だぁ〜」 情けなく叫びながら頭を抱える薫。 「ちょ、あんた、しっかりしなさいよ!」 がくがくと和広の肩を揺さぶって正気を取り戻させようとする美佳。 「ふふふ……大丈夫だ大丈夫……」 美佳に揺さぶられながら、半開きの口から呪言のようにそれを呟き続ける和広。 「か〜ず〜く〜ん」 夢見心地の幸せ気分で和広の背中に抱きつく燐。 「きゃぁっ!」 その勢いが強かったため、和広の体が前方に傾いだ」 「ちょ、離れなさいよッ! あんたには燐がいるでしょうが!!」 燐が覆い被さってきたためにバランスを崩した和広が、まるで美佳に覆い被さるようになっている。 さすがの美佳も顔を真っ赤にして混乱気味だ。 そして、薫が美佳の叫びを聞いて振り返り、飛び込んできた光景に素っ頓狂な声を上げた。 「ああ、和広くん! なんで美佳を!?」 「だぁぁぁぁッ! ショック受けてないでとっととどけてよ〜!!」 「まさか……そんな……僕は……」 美佳が叫ぶも、薫はあまりのショックに抜け殻と化していた。 それから数時間後。四人は、山小屋を後にし、下山の途を辿っていた。 先ほどまでの猛吹雪が嘘のように、空は晴れ渡っている。 「……ここまで違うんだねぇ〜」 頭に特大のたんこぶをこさえた燐が、感慨深げにそう言った。 「なんかこう、とってもバカにされてるみたいな青空で嫌な感じ」 不機嫌絶頂という雰囲気の美佳が、とりあえず追随の意を唱える。 「美佳……それはひねくれだって」 「というか、そう憎々しげにするな。万が一犯人に聞かれてまた吹雪にされたらかなわん」 和広が、かなり真剣にたしなめる。 というのも、四人は晴れの内に記憶の方向のみを頼りに進まなければならないからだ。 ここで吹雪かれると、本気で生命の心配をしなければならない。 「分かったわよ……」 さすがに美佳もその危険性については重々承知しているので、渋々ながら説得に応じる。 「でもさ、本当にこっちでいいのかな? 実はその幻獣が下の方にいるとかない?」 薫が心配げに言ってくる。 それに対する解答は、至ってシンプルなものだった。 「んなことはしらん」 「分かってたら、自信たっぷりに違う方向から下山するわよ」 「そ、そっか……」 妙に威圧的な二人の物言いに、たじろぎ乾いた笑いを漏らす薫。 そして、それを最後に、会話が途切れた。 ひたすら、山を下り続ける四人。 「燐、どうかしたか?」 ふと、燐が止まって空を見ている事に気付いた和広。振り返り、やや上にいる燐にそう声をかけた。 「……ん〜。薫くんの言ったこと〜当たりかもしれない〜」 「……なに?」 燐の言葉に眉をひそめる和広。 「どーしたの、二人とも」 「早くしなさいよ〜」 やや下では、薫と美佳が立ち止まって怪訝そうな顔をしている。 「どういうことだ、燐?」 「もうすぐ〜吹雪になると思うよ〜。行きの時と〜同じ感じがするの〜」 和広へと視線を戻し、そう言う燐。 嘘を言っているようには見えないその瞳が、真っ直ぐに和広を見ている。 「……後どれくらいだ?」 和広の問いに、燐は首を横に振った。 「この状況でか。参ったな……。場所は特定できるか?」 「ん〜たぶん大丈夫〜」 「分かった。鴻、薫! もうすぐ吹雪くぞ!」 和広は燐にそう答え、薫と美佳へと呼びかけながら、二人の下まで降りる。燐も、それに続いた。 「ちょっ、吹雪くってどういうこと!?」 案の定、目を瞠ってそう声を張り上げる美佳。 「燐が察知した。行きの時と同じ感覚らしい。たぶん、幻獣はこの近くにいる」 「ど、どうするの? ここで吹雪くってことは、止まるわけにはいかないでしょ? それに、戻って別ルートっていうのもたどり着けるか分からないから危険だし……」 わたわたたとそうまくし立てる薫。 「落ち着け、薫。俺としては、燐に探知させて探りに行く方が好ましいと思う。場合によっては、吹雪を止められるかもしれない」 「ちょっ、あんた、幻獣と戦うつもり!? いくらなんでも無謀よ!!」 いつもより早口に提案した和広。 それに対し、真っ向から反対する美佳。 どちらにも、余裕が感じられない。 「だが、ここに留まっても戻っても恐らく死ぬぞ。このタイミングで吹雪くってことは、幻獣が俺達を関知し、排除しようとしたと考える方が自然だ。かと言って、吹雪の中、きちんと下山できる可能性も無い。戻るのだって、視界が利かなければ、迷う可能性の方が高い。だったら、助かる道は幻獣を倒す方法だけだ」 「万が一にも可能性はないわよ!」 「だが、ゼロじゃない。それに、後どれくらいで下山できるかも分からない以上、ここから動くのも戦うのも確率的にはほとんど変わらない」 じっと、和広と美佳が睨み合う。 その間にも、燐の言葉を裏付けるように強い風が吹き始め、それには白いものが混じっている。 「……薫、燐。二人は?」 和広から視線を外さず、美佳は問い掛けた。 「私はぁ〜幻獣の方かなぁ。幻獣に会ってみたいし〜それに〜知性を持っているなら〜話を聞いてもらえるかもしれないもん〜」 「正直、吹雪の中を安全なところまで行く体力はもう残ってないかな。二、三時間じゃ、抜けられないだろうしね」 燐と薫が、それぞれそう答えた。 「……ったく、未知の相手だってのに、甘い考えなんだから」 和広から視線を外し、心底から溜息をつく美佳。 「まぁ、三人がそう考えるなら、そっちで良いわよ。あんた達とだと、できそうだから不思議よね」 そう言って肩をすくめ、笑顔を見せる。 「よし、燐、頼むぞ」 「了解〜」 そろそろ、天気は本格的に吹雪になり始めた。 そんな中でも、燐の声だけは脳天気なままだった。 「この洞窟か……? 燐」 燐が吹雪の中向かったのは、ぽっかりと口を開けた洞窟だった。 直径五メートルはあろうかという入り口と、下方に向かう通路。傾斜はさほどきつくないが、かなり深そうだということは分かる。 「うん〜。もう、和くん達も分かるでしょ〜?」 「まぁ、さすがにね」 燐の質問に、薫が引きつり気味の苦笑で答える。どうやら、あまり気分が良くないらしい。 「……あーやっぱりきっついわねぇ、この魔力」 その理由を代弁するかのように、美佳が正直な感想を漏らした。 洞窟の中からは、膨大な魔力が垂れ流し状態で湧き出てきている。魔力に敏感な四人にとってみれば、それは不快なものでしかなかった。 他の存在が放つ魔力というのは、生物にとってかなりの影響がある。この世界に存在する魔力であれば、よっぽど敵意などを持っていない限りは相互に良作用を起こし、助け合う形になる。 しかし、敵意を持っていたり、この世界とは別の世界の存在が放つ魔力であったりすると、それは悪影響を互いに及ぼしあう。 魔力の扱いを心得ている人間であればそれをはじき返すこともできるが、その度合いはその実力による。 いくら四人が凄腕と言っても差し支えない実力者の集まりであっても、更に桁の違う幻獣の魔力に晒されれば、その影響を免れることは不可能だ。 「とにかく、さっさと終わらせよう」 和広の言葉に、全員が頷いた。 そして、もっとも戦闘を得意とする燐と和広が先頭となって洞窟の中へ足を踏み入れる。 中は、色々な意味で別世界だった。 吹雪の影響など全く無いかのように、普通の冬並の寒さだ。完全装備の四人は、やや暑い感覚さえ覚える。 だが、それとは逆に心の芯は、拡散することなくまとわりついてくる魔力に晒され、極寒の中にいるような苦痛を味わっている。 「くっ……洒落にならんな」 「長時間はぁ……きついねぇ……」 前を歩く和広と燐は、後ろの二人よりも直に魔力を浴びるため、その苦痛は想像を絶するものがある。いつもはぽや〜んとしている燐も、さすがに今ばかりは苦痛の表情を抑えきれない。 今放たれているのは、直接の魔力だ。魔法などに変換されていれば対処のしようもあるのだが、魔力そのものには、魔力そのものでしか対抗しようがなく、今はその影響のほぼ八割を受けているといった感じだ。 「二人とも、大丈夫?」 「無理なら変わるわよ……?」 後ろを歩く薫と美佳が、気遣いの声をかける。 「大丈夫だ……。それに、鴻は場合によっては幻獣を説得できるかもしれん、最終手段だ。あまり前に出て疲れすぎるのはまずい」 そう言って、美佳の申し出を断る和広。その口調に、いつもの余裕はない。 しかし、美佳も今回の自分の役目になるであろうことの大きさはよく分かっているので、無理に前に出ることはできなかった。 しばらく、無言のまま四人は進む。 普段の進軍時間の三倍以上の時間をかけて、ようやく四人は行き止まりへと辿り着いた。 そして、そこには、細長い体にびっしりと氷の鱗を纏った蛇がいた。 太さは人二人から三人分くらい。二十メートル以上はあろうかという細長い体を器用に折り曲げ、洞窟の最深部を占拠している。 その瞳は獰猛に紅く光り、闖入者を威嚇するように鋭く見据えていた。 「な、なんだこいつは……」 和広が、恐怖に顔を歪ませている。 姿が恐ろしいのではない。その紅く獰猛な瞳が、深淵までをも凍り付かせるかのように、鋭く睨んでいるのに、どうしようもなく恐怖を感じるのだ。 「ま、まさか……げ、幻獣……フリーザーデスネーク…………?」 その姿に覚えのある美佳は、畏怖と共にその名を口走った。 伝説にその名を残す、氷の化身フリーザーデスネーク。 記録によれば、数百年前にこちらの世界に現れたことのある、獰猛かつ強力な幻獣だ。 その能力は桁外れに強く、山一つを雪で覆うことが出来るという。 確証こそないが、かつての氷河期はこの幻獣が数匹同時に現れたために起こったとまでされている。もっとも、氷河期に関しては、その中に聖獣が混じっていたとされる説の方が有力だが。 「なっ……!?」 「や、やばいって……マジで」 さすがにもう少し弱い幻獣を想像していただけに、和広と美佳はショックを隠しきれない。 燐と薫も、その威圧感だけですでに竦んでいる。 「和広……」 と、さすがに逃げようと美佳が提案しかけたその瞬間、 ずずん という音をたてて、フリーザーデスネークが倒れた。 それと同時に、あんなにも四人を蝕んでいた魔力が、ぴたりと止む。 「え……?」 あまりに突然のことに、呆然とする四人。 と、そのフリーザーデスネークの後ろから、ミニチュア版とでも言うような、小さなフリーザーデスネークが這い出してきた。 「あ、可愛い……」 状況も忘れ、美佳は思わずぽろりとそんな事を漏らしてしまった。 恐らく子供であろうフリーザーデスネークは、必死に親の顔を舐めている。 しかし、親が起きあがる様子は全く無い。それどころか、動きそのものがすでに皆無の状態だ。 だが、それでも子供は必死に親にすがりつくようにしている。 「って、怪我でしてる!」 美佳が、子供の体に大きな傷を見つけた。何かに引っかかれたような傷だ。 出血は無いようだが、そこから魔力が漏れ出ているのが分かる。 「いけない……このままじゃ」 通常の使役獣で考えると、魔力の漏洩は死に繋がる。幻獣とて、基本は同じであろう。 間違いなく、このままでは命を落とす。 美佳が、前にいる和広を押しのけて走り出した。 「お、おいっ!」 和広が踏鞴を踏み、声を張り上げる。 しかし、美佳はそんな声には耳も貸さず、子供のフリーザーデスネークに近寄り、その体を抱き込むように抱え込んだ。 「!?」 驚いたようで、子供のフリーザーデスネークは反射的に美佳へと向き直り、その腕に噛みついた。 「つぅ……!」 苦痛に顔を歪ませる美佳。 だが、その手が弛められることはない。 「美佳!」 「美佳ちゃん!?」 二重の意味で驚きの声を上げる薫と燐。 「大丈夫!」 そう声を張り上げる美佳だが、その声は苦痛に歪んでいる。 そして、背中越しになっているので三人からは見えないが、フリーザーデスネークが噛みついたその腕が、ピキピキと乾いた音を立ててゆっくりと凍り付いていっている。 「この傷なら……。来て、ユニコーン!」 片手全体でフリーザーデスネークを抱き直し、空いた手で魔法陣を造り出す。 魔法陣が淡い光りを放つと、そこには一角を持つ馬、ユニコーンが出現した。 「お願い、ユニコーン!」 美佳の声を聞くと、ユニコーンの一角が淡い白光を放ち始める。 そして、その光はフレイザーデスネークへと集束される。 光に包まれたフレイザーデスネークの傷が、巻き戻しを見るかのようにみるみる塞がっていく。 そして、数秒後、光が拡散するように消え失せた時には、もう、フレイザーデスネークの体には傷一つなくなっていた。 「うん、これで大丈夫よ」 「美佳!」 腕の中に優しい声をかけた美佳を見て、薫が金縛りから解けたように駆け寄った。 「!? 腕が!」 駆け寄って覗き込んだ薫が、驚愕の声を上げた。美佳の腕は、肩の側までがほぼ完全に凍り付いていたのだ。 「こいつ!」 逆上し、フレイザーデスネークをつかみ取ろうとする薫。 「駄目!」 それを抱え込んで阻止する美佳。 「駄目……大丈夫だから。この子は悪くない」 背中を丸め、視覚からも外そうとでも言うのか、美佳は前屈みになってそう薫に言う。 「シー」 フレイザーデスネークの口が、美佳の腕から離れた。まるで、美佳の言葉が伝わったかのように。 そして、まるでいたわるかのようにその腕を舐め始めた。 「うん、大丈夫。大丈夫だよ」 優しく腕の中のフレイザーデスネークに語りかける美佳。 まるで、それは我が子に語りかける母のような、慈しみに溢れた声だ。 「……鴻。戻るぞ。早くしないと手遅れになる」 いつの間にか近づいてきていた和広が、美佳の腕を見て冷静にそう言った。 美佳の腕はかなり危険な状態だ。 だが、急いで学園に戻り治療を受ければなんとかなる。そう判断してのことだ。 「そうね……うん」 そう言って立ち上がる美佳。フレイザーデスネークをそっと体から離す。 すると、フレイザーデスネークは、ふわりと宙に浮いた。 「うん、もう大丈夫ね」 それを見て、美佳が笑顔を見せた。先ほどは、怪我のせいで飛べなかったのだ。 「んじゃ、戻るか。後のことは、上に任せよう」 「この子達、放っておくの?」 「それしかあるまい。俺達じゃ、戻してやることもできないし保護するのも無理だ。学園に任せる以外にない」 「……それもそう……だね」 モルモット扱いされることが分かっているだけに気の進まない美佳だが、和広の言うことはもっともだ。頷くしかない。 「行くぞ」 そう言って、洞窟の出口へと向かって歩き出す和広。それに続く燐と薫。 一瞬だけ振り返り……美佳は、 「じゃぁね」 それだけ言い、三人に続いた。 きょとんとした様子でそれを見送るフレイザーデスネーク。 しかし、何を思ったか、美佳の後にふわふわと続いていく。 そして、美佳に追いついたところで、その後頭部を口先でつついた。 「え?」 思わず止まって振り返る美佳。 じっと、フレイザーデスネークは美佳の顔を見ている。 「……? バイバイ」 小さく疑問に首を傾げながらも、美佳はそう言って再び歩き出した。 しかし、フレイザーデスネークは再び美佳の後へと続き、美佳の後頭部をつつく。 「…………」 振り返り、じっと見つめ合う美佳とフレイザーデスネーク。 やや間を置いて、美佳は後ろ向きのまま歩き出した。 フレイザーデスネークは、そんな美佳の後を一定の距離を保ったままついてくる。 (えーっと…………) 内心でどうするべきか困惑の美佳。 じっと見つめてくるフレイザーデスネークから視線を外す間を失い、そのまま歩き続けている。 やがて、洞窟の出口に辿り着いた。 妨害する魔力が無いため、かなり短時間で辿り着いたのだが……洞窟の外に出ても、フレイザーデスネークはついてくる。 ぴたり、と美佳が足を止めると、フレイザーデスネークも進むのをやめた。 その位置は、様子を見るように美佳に道を譲った結果、四人が囲うようになっている。 しかし、フレイザーデスネークは周りのことなどお構いなしに美佳をじっと見ている。 「……これ、どう解釈したらいいのかな?」 やや引きつり気味の笑顔で、美佳が三人に意見を求めた。 「懐かれた……んだろうな」 「美佳ちゃん〜優しいから〜」 苦渋の混じる口調の和広とは正反対に、燐はにこにこと嬉しそうだ。 しかし、この場合、懐かれた、で事が済むものでもない。 「どうしよう?」 途方に暮れたように美佳が漏らした。 だが、返ってくるのは沈黙のみだった。 そして、ややあってから和広が口を開いた。 「お前はどうしたい?」 その核心を突いた質問に、言葉に詰まる美佳。 「私は、この子の意志をできるだけ尊重したい。この子が私に懐いてくるんだったら守ってあげたい。自分の意志で帰るなら、喜んで送り出す。ただ無責任に放り出すのだけは、嫌」 しばらく悩んでから、美佳はそう言った。その瞳には、確固たる意志の強さがある。 「…………本当に懐いているのかがわからんとどうにもならんな。懐いているようなら……」 「で、でも! 幻獣を連れて帰るなんていくらなんでも……連れて帰ったところで、解剖とかされるのがオチじゃ……」 「いや、一つだけ方法がある」 薫の慌てたような声に、和広がきっぱりとそう言い放った。 「学園を出し抜ける方法があるの?」 驚きに目を丸くして尋ねる美佳。 しかし、和広はゆっくりと首を振る。 「いや、出し抜くのは無理だ。だが、説得する方法はある。こいつは、唯一の生きたサンプルだ。それを逆手に取ればいい」 「サンプルって……」 不穏な台詞を使った和広を、美佳はぎろりと睨む。 「学園側にとってだ。それくらい察しろ。要するに、学園に妥協案を提示するんだよ。俺が何とかして学園側に条件をのませる。ただし、監視が付くことと戦闘実験に駆り出されることくらいはお前にも我慢してもらうことになるだろうが」 「あ、なるほど……。うん、それくらいなら我慢するわ」 心底から納得した美佳は、素直に頷いた。 「でも〜学園がのまなかった場合は〜?」 「そんときゃ、無理矢理向こうに返すさ。鴻の意志にはそぐわないかもしれないが……それこそ、守ることになるだろう。学園に戻れば、それくらいはどうにかなるしな。お前達にも協力してもらわないとならないが……どうだ?」 燐の質問に、和広はきっぱりと言った。その答えに、燐はぱぁっと笑顔を広げて頷いた。 「もちろんだよ〜」 「……まぁ、もう、無茶は慣れたから」 薫はなんだか苦笑気味だが、パーティーの結束は固まった。 もし学園が条件をのまなかった場合、処分は免れないが……このメンツでそれを気にするような人間はいない。 「三人ともありがとう!」 美佳が、飛び上がらんばかりの笑顔で礼を述べる。 そして、すぐさまフリーザーデスネークに語りかける。 「どう? 分かった? 一緒に来る?」 美佳がそう言うと、フレイザーデスネークは、弾かれたように美佳の胸の中飛び込んだ。 「あはは、一緒に来るんだね」 美佳は、そんなフレイザーデスネークを抱き留めてご満悦だ。 「……幻獣を手懐けるとはな。ひょっとしたら、とんでもない天才かもな、鴻は」 少々面食らったような表情を見せる和広だが、内心ではどこか楽しそうだ。 「そうだね……。でも、美佳は美佳だよ。美佳、じゃれるのは後でも出来るし、早く戻ろう!」 「あ、うん」 そうして、四人と一匹は、そろって穏やかになった山を下山した。
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